2011 Fiscal Year Annual Research Report
不妊夫婦の喪失と葛藤,その支援―見えない選択径路を可視化する質的研究法の展開
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22683016
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
安田 裕子 立命館大学, 衣笠総合研究機構, ポストドクトラルフェロー (20437180)
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Keywords | 質的研究法TEM / 不妊夫婦 / 喪失経験 / 生涯発達 / ナラティヴ / 心理的支援 / 権利擁護 / 協働的実践 |
Research Abstract |
不妊治療者の経験をもとに生涯発達心理学の観点から支援の検討を目的とした研究、および質的研究法TEMに関する研究をそれぞれ発展させ、 1.当事者夫婦の喪失や葛藤とその対処過程の把握、ならびに不妊心理臨床に資する知見の獲得 2.人の発達や人生径路の多様性と複線性を、時間経過と社会文化的諸力の中で可視化するTEMの展開可能性の検討を目的に、次の研究を行った。 1)理論:生殖に課題を有する女性1人を対象に、不妊治療への関わり方や子どもを望む想いについてその変容を捉えるべく、3回目と4回目の不妊(治療)経験のインタビューを行った。また、生殖医療カウンセラーを対象に、不妊特有の喪失とその対処に関するインタビューを実施した。TEM理論研究会の開催に向けた基盤をつくった。 2)協働実践:現象を捉えるTEMの実践上の適用可能性を検討する研究会を4回(京都・立命館大学で3回、名古屋で1回)企画・開催した。国際ヨーロッパ心理学会(トルコ・イスタンブール)、ならびに研究協力者村本邦子教授(立命館大学)とともに国際活動理論学会(イタリア・ローマ)に参加し、前者ではTEMに関するポスター発表を、後者では不妊治療における夫婦関係に焦点をあてたポスター発表を行った。また、米国マサチューセッツ州ウースター(クラーク大学・TEMの共同開発者ヤーン・ヴァルシナー教授による受け入れ)に3週間程度滞在し、TEMに関する研究発表を行った。国内では対人援助学会、日本質的心理学会、日本発達心理学会などに参加し、近接領域の研究者や援助者と知見を共有した。 3)応用的検討:TEMの2冊目の著書の刊行に向けた執筆・編集を、共同研究者佐藤達哉教授(立命館大学)とともに行った。ヴァルシナー教授には2012年12月に、TEMとの関連について検討している対話的自己理論の世界的第一人者ヒューバート・ハーマンス教授夫妻には9月下旬-10月初旬に来日いただき、国際的な研究交流を行うべく、準備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の総括として位置づけている「質的研究法TEMの応用・発展可能性の検討、著書の刊行」、ならびに「質的研究法に関する国際シンポジウムの開催」に向けた準備を着実に進めることができているため、おおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
1)「理論-現象理解と文献購読会」に関し、前者については当事者女性に5回目のインタビューを行う。後者については、2012年5月に理論研究会を開催し、TEMに関する理論面での検討を進める。 2)「実践-対人援助と研究協働」に関し、前者について、当事者グループの開催を目的のひとつにあげていたが開催に至っていない。当事者グループの潜在的ニーズはあるが、一方で、参加を呼びかけるもさまざまな理由によりそのニーズを掘り起こしきれない現実がある。よって当事者グループの実施に固執せずに、1)で捉えたインタビューデータをもとにした不妊心理臨床に資する知見の整理に力を注ぐこととする。後者に関しては、これまでと同様、TEMの実践上の適用を検討する研究会を行い、TEMの適用可能性を検討・共有しつつ、各種関連学会でセッションを企画し、学会という公的な場での議論や研究知見の共有を進める。 3)「応用的展開(知見のまとめ)」については次の通りである。まず、2012年9月下旬にナイメーヘン・ラートボウト大学ヒューバート・ハーマンス教授、ならびに国際対話的自己研究所アグニエスツカ・ハーマンス-コノプカプログラムディレクターを招聘し、現在グループを構成し携わっている"Dialogical Self Theory"の翻訳に関する研究会を開催し、翻訳作業内容についての確認・検討を行う。また、引き続き10月6-7日に島根県で開催される日本パーソナリティ心理学会にて講演いただく。クラーク大学ヤーン・ヴァルシナー教授を2012年12月中旬から10日程度招聘し、立命館大学にて国際研究会あるいはシンポジウムを開催する。なお、TEMに関する2冊目の著書は、2012年9月に刊行予定である。そして、不妊夫婦を対象とした不妊心理臨床に関しては、インタビューデータを論文にまとめ、投稿する。
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