2011 Fiscal Year Annual Research Report
低温フォトニックアシスト常伝導空洞による高電界・高Qを兼ね備えた新領域電子加速管
Project/Area Number |
22684010
|
Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
吉田 光宏 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 准教授 (60391710)
|
Keywords | 加速器 / フォトニック |
Research Abstract |
本研究の目的は、電子線形加速器で超伝導空洞と代替可能な高いQ値と常伝導の高電界を合わせ持つ、液体窒素温度で低損失な誘電体フォトニック構造を用いた加速空洞の実証である。フォトニック構造は構造周期で決まる周波数帯のみにバンドギャップが存在し、電磁波を閉じ込める事ができる。フォトニック構造は誘電体によって形成されるが、誘電損失は低温で非常に小さくなる事が知られており、誘電体でフォトニック構造を作れば、非常に高いQ値の加速空洞が構成できる。さらに電界強度についても誘電体には超伝導におけるクエンチのような原理的な限界が存在しない。 研究期間内に明らかにする課題としては、低損失誘電体の材質の検討、フォトニック構造の形成方法、フォトニック構造の配置、単空洞での高電界試験を行い、このフォトニックアシスト常伝導加速空洞が超伝導空洞と代替可能で、さらに常伝導加速管並みの非常に高い電界が得られる事を実証する。 高純度アルミナ空洞の形成方法については、当初高純度アルミナ粉末を高温焼結する方法を行なっていたが、この方法では充填率が上がらなかった。そこでアンモニウムドーソナイト(NH4AlCO3(OH)2)を焼結する事によって市販のアルミナ以上に超高純度のアルミナを形成できるようになり、本研究のアルミナ空洞を研究所内で製造できるようになった。これによって通常のアルミナの製造期間を遥かに上回る速度で様々な試験ができるようになった。 また空洞の冷却試験についても行なってきたが、冷凍機の不具合によって、平成23年度の補助金の一部を繰り越し、平成24年度の補助金で冷凍機を購入し、これを用いてQ値の測定を行った。冷凍機による冷却試験ができない研究期間については、上記の形成方法の向上や、詳細な材質評価、シミュレーションによる空洞の最適化やマイクロ波送電系の設計を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では冷却空洞による高いQ値を得る事が目的であり、このためには超高純度のアルミナ等の不純物の少ない誘電体の製造方法と、初年度に製造した試験チェンバーの空洞の冷却試験によるQ値測定が重要である。 誘電体の製造方法については、アンモニウムドーソナイト(NH4AlCO3(OH)2)の焼結によって、超高純度のアルミナが製造できるようになり、さらに石膏型を使用する事で水分を取り除く事ができ、高密度のアルミナが得られるようになった。これにより本研究のアルミナ空洞を研究所内で製造できるようになり、通常の外注によるアルミナの製造が必要無くなった上外注の場合の製造期間を遥かに上回る速度で様々な試験ができるようになり、当初計画以上に進展している。 冷却試験については、高エネルギー加速器研究機構が所持していたかなり旧式の冷凍機を使用していたが、この冷凍機の不具合によって、平成23年度の補助金の一部を繰り越し、平成24年度の補助金で冷凍機を購入し、これを用いてQ値の測定を行った。 冷凍機による冷却試験ができない研究期間については、上記の形成方法の向上や、詳細な材質評価、シミュレーションによる空洞の最適化やマイクロ波送電系の設計を行う事で、全体としてはおおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度には冷凍機チェンバーを使って、ギャラリーモードによる高次モードを利用して、冷却時のQ値測定を行い、材料の詳細な評価を行う。さらに単空洞による電磁波の閉じ込めと、これによるQ値の測定を行う。その後は高電力試験に必要な冷却能力の冷凍機を用いた加速試験用の冷却チェンバーと、ビーム源を含むこれらの分析系を製造し、高電力及びビーム加速試験を行う。 さらに多セルの構造に関して、フォトニック構造では電磁波の漏れが隣合う空洞間や入力カプラーの結合度となり、それを考慮した設計が必要である。また空洞列の両端の層数と形状を適切に選べば、導体壁の空洞に比べて、ビーム誘起波の減衰を速くできるという利点があり、高いQ値とビーム誘起波の減衰が共存できる形状を設計する。 また量産工程の試験を進めていく。量産には金型とプレスによる誘電体の形成、電子ビーム溶接等による接合、及び表面のメタライズ等が必要であり、これらのフォトニックアシスト空洞の量産技術の検討を行う。 さらにフォトニック空洞を形成する誘電体材料としてアルミナ以外の材料についても検討を進める。フォトニック構造の層辺りの電磁波の反射係数は誘電率の高い材料程大きくなり、フォトニック空洞の特性が向上する。アルミナより高誘電率の材料として酸化ニオブやBMT等があり、これらの材料の評価も上記に加えて行なっていく。
|