Research Abstract |
海岸クロマツ林において優占するCenococcum geophilumの遺伝的多様性を明らかにするため,異なる調査地に由来するC.geophilum菌根の遺伝子解析を行った.本研究では,海岸クロマツ林8林分(三重県紀宝町,愛知県田原市,静岡県静岡市三保松原,沼津市千本松原,石川県能美市,富山県高岡市,青森県つがる市,鹿児島県さつま市)に由来するC.geophilum菌根もしくはそれらの分離菌株を用いた.各林分においてC.geophilum菌根を1-5haの範囲から採取し,実体顕微鏡下で形態的特徴にもとづき同定した.これらの菌根および分離菌株からゲノムDNAを抽出した後,C.geophilumのInternal transcribed spacer (ITS)領域の部分領域を増幅するプライマー対(CGITS1/CGITS2)でPCR反応を行い,単一バンドの増幅の有無によって本種を分子同定した.増幅が確認されたサンプルを対象に,glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase (gpd)遺伝子を増幅するプライマー対(gpd1/gpd2)でダイレクトシーケンス解析を行ってから,Blastによる相同性検索と近隣結合法による系統樹作成を行った.さらに,既存のC.geophilum用の5組のマイクロサテライトマーカーを用いたマイクロサテライト解析を行った.現在のところ,173サンプル中165サンプルでCGITSプライマー対によるITS領域のPCR増幅が確認された.このことは形態的特徴の識別による本種の同定がおおむね適切に行われたことを示唆する.gpd遺伝子のシークエンス解析は127サンプルで成功し,すべてがC.geophilum由来のgpd遺伝子配列と高い相同性を示した(E値=0).構築された系統樹により,得られた配列は4つのクレードのいずれかに位置付けられたが,その多く(122/127サンプル)は特定の1つのクレードに位置づけられた.マイクロサテライト解析は102サンプルで成功しており,各調査地で6-16遺伝子型に分かれ,全体の遺伝子型は71種類に分かれた.現在,さらに解析を進行中であるものの,日本の海岸クロマツ林に生息するC.geophilumの採取地内,採取地間における遺伝的多様性が示された.
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