2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22689001
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
有澤 美枝子 東北大学, 薬学研究科(研究院), 講師 (50302162)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 平衡制御 / ロジウム触媒 / 不活性結合 / 平衡相関 / 酸性度 / 有機イオウ化合物 / 切断再配列 / イオウ単体 |
Research Abstract |
ロジウム触媒が様々な単結合を容易に可逆的に切断することを見出した。今回、ロジウム触媒下、芳香族フッ化物C-F結合とイオウ単体が反応して芳香族スルフィドを与えることを見出した。フッ素原子の捕捉剤としてトリブチルシランを添加すると効率よくC-S結合生成を行えた。イオウ単体と芳香族ハロゲン化物から芳香族スルフィドを合成した従来の報告は、いずれも250°C以上の高温条件が必要である。本反応は、ロジウム触媒下、室温または80°Cで収率よく進行する。また、イオウ単体を直接合成的に利用できることを示した。 一連の研究の過程で、ロジウム触媒がベンジルケトンCO-C結合を切断し、チオエステルや芳香族エステルと交換することを見出した。ロジウム触媒を用いると不活性結合を直接切断して変換でき、有機化合物の変換を一挙に行う新しい方法になり得ることを示した結果である。 平衡を望みの物質生成にシフトする方法として、段階的に中間生成物を選択し、平衡系を出発物質から移動させながら目的物に到達する平衡制御を検討した。これまでに、ベンジルケトン(pKa17)、アルキルケトン(pKa24)及びベンゾチアゾール(pKa27)のC-H結合をC-S結合に平衡的に変換できることを示した。本年度は、メチルチオチアゾールを用いてオキサゾール(pKa27.1)やチアゾール(pKa29.4)のメチルチオ化を行えることを見出した。この過程で、比較的酸性度が高いニトロアルカン(pKa16-18)の1-チオ化反応をジスルフィドを用いて触媒的に行えることも分かった。これらの反応では触媒失活が競合するが、順次生成物を次の反応のチオ化ドナーとして利用すると効率よく反応した。これは、平衡相関を利用して、反応の初速を向上させて速度論的な問題を解決できることを示した結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度までに、平衡制御法として、1) ヘテロ元素捕捉剤を添加する平衡制御と 2) 段階的に中間生成物を選択し、平衡系を出発物質から移動させながら目的物へ到達する平衡制御法を開発できた。なお、触媒的平衡相関を利用する本反応は、無塩基条件下進行する平衡反応であるため有機化合物が副生するが、より単純で処理しやすい化合物であることが望ましい。ジスルフィドを用いるニトロアルカンのチオ化反応は、逆反応が進行しやすい熱力学的に不利な平衡反応である。空気中反応させて副生するチオールをジスルフィドと水に酸化するとチオニトロアルカン生成系に平衡移動できた。ここでは、ジスルフィドは本反応の原料であるため、原理的に副生成物は水のみである。即ち、平衡制御と副生成物の問題を解決できることを示した。 一連の研究の過程で、ロジウム触媒がベンジルケトンCO-C結合を切断することを見出した。これを基に、フェノキシ基を脱離基に有する複素環化合物と芳香族化合物のロジウム触媒ベンジル化反応を開発した。ロジウム触媒を用いると不活性結合を直接切断して変換でき、有機化合物の変換を一挙に行う新しい方法になり得ることを示した。 加えて、ロジウム触媒存在下、α-チオケトンを酸化剤として利用すると、芳香族ベンジルケトンの酸化的カップリングによって2,3-ジアリール-1,4-ジフェニルブタノンを効率よく与えることを見出した。有機イオウ試薬を用いて酸化的カップリング反応を行えることを示した。 以上の結果と合わせて、芳香族フッ化物および芳香族リン化合物の切断反応やイオウ単体を直接用いる反応開発において、ロジウム触媒が様々な単結合を容易に可逆的に切断することを示し、当初の計画以上の成果を見出している。
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Strategy for Future Research Activity |
触媒的平衡相関に基づいて見出した複数の平衡反応を組合せて、熱力学的に不利とされる反応を行えることを確認した。これまでに、α-チオケトンやベンジルケトンに加えて、アルキルケトン (pKa24) 及び複素環化合物 (pKa27) のC-H結合をC-S結合に平衡的に変換する個々の反応を開発した。これらの平衡反応を組合わせて、ジメチルジスルフィドを用いてベンゾチアゾールをチオ化する反応が、アセトフェノン、ベンジルケトン、アルキルケトンを添加し、対応するチオ化ケトンを経由しながら進行することを明らかにした。これは、平衡相関をもとにして、入手容易な化合物から熱力学的に不利な反応を行えることを示した結果である。今後、この結果に平衡制御法を組合せて、効率よく複数の平衡系を移動させる方法を開発する。具体的には、生成物を系外へ移動させる工夫として、減圧下での反応、二層系反応の利用、フロー系の利用、酸化反応等の組合わせを検討して達成することを計画している。 加えて、以上のチオ化反応では触媒失活が競合する問題がある。今回は、順次生成物を次の反応のチオ化ドナーとして利用すると効率よく反応することを示した。これは、平衡相関を利用して、反応の初速を向上させて速度論的な問題を解決できることを示した結果であるが、根本的に解決するためには高活性触媒の探索が必要である。今後、高反応性および高耐久性の触媒配位子の検討を行う。ここでは、リン原子間に二炭素鎖有する二座配位子と合わせて、比較的柔軟な長鎖二座配位子や電子豊富な単座配位子等を中心に幅広く検討する。合わせて、触媒活性種の生成法について探索することで問題を解決できると考えている。
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