2011 Fiscal Year Annual Research Report
粘菌アメーバの時空間振動ダイナミクスを活用するバイオコンピュータの研究開発
Project/Area Number |
22700322
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
青野 真士 独立行政法人理化学研究所, 揺律機能研究チーム, 基幹研究所研究員 (00391839)
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Keywords | 自己組織化 / 人工知能 / 生体材料 / 自然計算 / 最適化 / 意思決定 / 資源配分 / 複雑系 |
Research Abstract |
単細胞生物・真性粘菌は、神経系のような集中制御系を持たないが、環境刺激情報の記憶、最適化問題解決等の高度な情報処理を実現できる。こうした自律分散型情報処理は、自発的に伸縮する繊維状タンパク群が、時空間振動ダイナミクスを自己組織化することにより実現するものと見られるが、詳細は不明な点が多い。本研究では、粘菌の自発的挙動に応じて光刺激をフィードバックするシステムを構築することで、時空間ダイナミクスが情報処理機能を創発する機序を解析するとともに、類似したダイナミクスをもつ物質を用いて革新的な平行計算を実装するための要件を明らかにすることを目指した。このシステムは、巡回セールスマン問題(TSP)の解を探索できる。TSPは最も難しい組合せ最適化問題の一つであり、有効な解(巡回経路)の総数は、Nの増大とともに指数関数的((N-1)!/2)に成長する。本システムの探索は、粘菌のN^2本の分枝(足)により行われる。それらが複雑な振動ダイナミクスに基づき伸び縮みしながら、どの足を伸ばせば光(嫌いな刺激)の照射リスクを最小化できるか試行錯誤し、最終的にN本の分枝のみが伸長したとき、その組合せが一つの解を表現することとなる。本年度は、N=4,5,6,7,8の場合の性能を比較した。その結果、Nが増大しても解の質は劣化せず(N=8の場合、上位約19%の短い経路長)、解到達時間はNに比例することが分かった。つまり、探索空間の成長がNの非線形関数となるにもかかわらず、探索に要する「時間」等の資源の増大をNの線形関数に抑えながら、「正確さ」は維持することができているのだ。このことは、本ダイナミクスが、ある程度正確な計算を「探索コスト」を低く抑えながら実現できる「経済的」な探索能力を有している可能性を示唆する。これは、類似したダイナミクスを活用するデバイスの優位性を主張する一つの論拠となり得る。
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