2011 Fiscal Year Annual Research Report
近赤外ラマン分光法による生体内ガス分子動態の可視化と腫瘍検出技術への応用
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22700476
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
塚田 孝祐 慶應義塾大学, 理工学部, 専任講師 (00351883)
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Keywords | ラマン分光 / がん / 一酸化窒素 / 一酸化炭素 / 早期発見 |
Research Abstract |
本研究は腫瘍や炎症で増大するガス分子である一酸化窒素や一酸化炭素を顕微ラマン分光を利用して検出し,画像化する新しい技術開発を行うことを目的とした.本年度はナノ秒時間ゲートシステムを新たに構築し,生体由来の自家蛍光を除去することによって高感度にラマン散乱を検出することに成功した.具体的にはRhodamine色素でマウス肺がん細胞のミトゴンドリアを染色し,ラマンピーク波数である3000cm-1および非ピーク波数2700cm-1の強度比をゲート時間を変化させて蛍光除去率を定量した.その結果,ゲート時間差31nsで効率的に蛍光を除去することが実験より確かめられた.さらに波数2800cm-1から3200cm-1のラマンスペクトルでは,時間ゲートをかける以前は蛍光による平坦なスペクトルであったが,ゲートを有効にした際にはラマン散乱信号が計測され,蛍光除去効果を確認した.今後は実験系を培養細胞等に応用し,細胞から発せられる自家蛍光が有効に除去されることでガス分子だけでなく例えば培地中のグルコースなど代謝関連分子を高感度で計測することが可能になると考えられる.一方,腫瘍モデル実験への応用に向けて,動物実験モデルを作製し,腫瘍および周囲の正常組織の酸素分圧を二次元的に計測した結果,直径数ミリメートルの腫瘍でも内部が著しい低酸素を呈していることを明らかにした.この低酸素状態は細胞内で転写因子HIF」1を活性化し,iNOSやNO-1の転写が活性化されることにより,腫瘍内のガス分子動態に影響している可能性が示唆された.最終年度は腫瘍モデルに高速ゲートラマンシステムを応用し,計測系の有効性を検討する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
微弱なラマン散乱光を高感度に検出することはテーマ遂行の上で重要な課題であり,感度低下の大きな要因となる蛍光の除去をナノ秒時間分解ゲートシステムによって達成したことは大きな成果であると考えている.この手法は当初の計画に含めていなかったが,新たな課題として追求し改善した点である.一方,生体応用の面ではガス分子を誘発する酵素発現系の確立に向け,細胞への遺伝子導入作業などが急務である.以上を総合して順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度では主に以下の3点について検討を行う.まず(1)蛍光除去によるSIN向上に向けて光学系の改善や時間分解法を追求し,更なる高感度化を目指す.また(2)ガス分子を誘導する酵素発現系を細胞レベルで確立する.更に当初の計画には含めていなかったが,(3)計測系を発展させ,ラマン計測系を糖代謝計測に応用する.これらを実施することにより,これまで明らかにしてきたミリ単位の超初期癌が極めて低酸素状態である知見に加え,腫瘍内のガス分子動態と糖代謝の関連を明らかにすることが可能となり,腫瘍代謝メカニズムを解明する上で強力なツールとなると考えられる.
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Research Products
(4 results)