2011 Fiscal Year Annual Research Report
幸福感と身体の機能的関連の解明―疾患予防と健康維持の観点から―
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22700683
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
松永 昌宏 生理学研究所, 大脳皮質機能研究系, 特任助教 (00533960)
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Keywords | 主観的幸福感 / 炎症性サイトカイン / ドーパミン / 陽電子断層撮影装置(PET) |
Research Abstract |
平成20年版国民生活白書によれば、最近10年間で、ストレスを感じている日本国民の割合が増加しているとともに、ストレスが原因とされるうつ病を含む精神・身体疾患に分類される推計患者数が2倍近く増加していると報告されている。また、精神的豊かさの指標である幸福感や生活満足度は逆に逓減している。精神身体疾患の発症を予防し健康を維持するために、近年幸福感などのポジティブ感情と身体機能との関連に関する基礎研究が注目を集めている。本研究では、先行研究で疾病率や致死率との関連が見出されている「幸福感」に着目し、幸福感と身体機能との関連を分子・神経レベルで明らかにし、それに基づいた心身の健康維持戦略を開発することを目的とした。本研究の結果、主観的幸福感と体内の炎症反応(うつ病などの精神・身体疾患の原因、のひとつ:炎症マーカーである炎症性サイトカインの血中濃度で評価)との間に負の相関があること、実験的に幸福感を高める(恋愛パートナーとの抱擁、自伝的記憶を想起する香りを嗅ぐ、など)と、体内の炎症反応が低下することが明らかとなった(Matsunaga et al,Neuroendocrinology Letters,2011)。また、主観的幸福感が高い個人は、快刺激に対する感受性が高く、脳内報酬系と考えられている内側前頭前野や腹側線条体の活動が高いことが示された(Matsmmaga et al.,Natural Science,2011)。報酬系活動を制御する神経伝達物質であるドーパミンは炎症反応を抑制することが知られているため、幸福感が高い個人はドーパミン神経系を介したメカニズムで炎症反応を抑制し、心身の健康を高めていることが示唆される。本研究の研究成果から今後心身の健康を維持するための予防医学的アプローチなどが展開されていくことが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成23年度より藤田保健衛生大学から生理学研究所へと異動したため、これまでの研究環境が一新され、研究計画の修正を余儀なくされたことが原因と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでは、幸福感と健康との関連の分子・神経基盤を解明するためのアプローチ方法として、陽電子断層撮影装置(PET)による脳機能解析と、採血による血中成分分析が主なものであったが、生理学研究所に異動したことで、機能的磁気共鳴断層画像法(fMRI)とVoxel based morphometry(VBM)という脳構造画像解析技術を新たに使用することが出来るようになった。今後はこれらの新しい技術を積極的に用い、これまでとは異なる観点から幸福感と健康との関連について明らかにしていく。
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Research Products
(8 results)