2010 Fiscal Year Annual Research Report
不完全雇用社会におけるワーク・ライフ・バランス概念の位置づけ
Project/Area Number |
22700717
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
鈴木 奈穂美 専修大学, 経済学部, 講師 (10386302)
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Keywords | 完全雇用社会の限界 / ワーク・ライフ・バランス / エンパワーメント / 市民・地域活動 / 時間配分 |
Research Abstract |
第一に,ワーク・ライフ・バランス(以下,WLBという)に関する政策や先行研究の動向を整理した。2010年に改訂された仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章では,ディーセント・ワークや新しい公共といった理念が盛り込まれ,以前のものよりも多様な人びとの生活を考慮する包括的な内容となった。しかし,これまでの実証研究は子育て中の有業者世帯を対象とした研究が中心で,いわゆるワーク・ファミリー・バランス(WFB)に矮小化されており,憲章にある社会像との乖離がみられる。本研究では,市民・地域活動者のWLB研究を通して,多様な人びとの生活をふまえたWLBの理論的枠組みの検討を目的としているが,実証研究でこのような視点のものはほとんどなかった。 第二に,「生活の社会化」や「福祉国家の危機」がもたらした生活の変容から,WLBが論じられるようになった社会的背景をまとめた。そこから,市場を超えた領域の再評価,そこで活動が有する「公共性」の意味合い,社会的排除の予防などといった社会全体のありようについて注目することが,多様な人びとのWLBの理論的枠組みの構築には重要であることがわかった。 第三に,「エンパワーメント」概念の整理をおこなった。社会的弱者を対象とした社会運動のなかで論じられた概念だが,第四回世界女性会議以降,すべての人を対象とするエンパワーメントが求められた。結果.個人的・心理的なエンパワーメント論が台頭し,エンパワーメントの非政治化やエンパワーメント格差の問題が指摘されるようになった。この中でWLB論が展開されていくと,一部の者しか対象者とならず,社会的排除の拡大などの社会問題との接点が薄れてしまう懸念がある。エンパワーメントをしていく人間像とは,個人同士,あるいは社会に対して働きかけることのできる価値を有する者であり,個人のWLBとそれが実現できる社会像とをつなぐ概念と考える。
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Research Products
(3 results)