2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22700846
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
赤田 昌倫 京都工芸繊維大学, ベンチャーラボラトリー, 研究員 (90573501)
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Keywords | 考古学 / 分析科学 / 繊維 |
Research Abstract |
絹製文化財の劣化状態を数値的に表すことは、保存処理方法の検討を行うために非常に重要な研究である。そのため絹製文化財の劣化状態と同様の強制劣化試料を作成する必要がある。特に絹製文化財のIRスペクトルは現代精練絹と比べ非常に特殊なIRスペクトルを示すことから、その劣化状態や劣化要因を検証する必要がある。平成22年度は強制劣化資料の作成と、作成試料の分析及び文化財資料の分析結果との比較を行った。 強制劣化試験では、(1)恒温恒湿度環境下での強制劣化試験(RH65%,70℃)(2)恒温での蒸留水中浸漬実験(pH6.0,70℃)(3)銅による絹の錆化実験(硫酸銅の10%水溶液に銅板と絹を浸漬)等の試験を行った。 (1)の実験では、UV/VISスペクトルの変化、物性強度変化、IRスペクトル変化について検証した。この中でUV/VISスペクトルは変化が顕著に見られたが、物性強度とIRスペクトルの変化はわずかにしか見られず、特にIRスペクトルにでは、Amide基のピーク形状は実験前と実験後ではピークの崩壊などの大きな変化は見られなかった。また(2)の実験では、UV/VISスペクトルと物性強度の変化は見られたが、IRスペクトルの変化は見られなかった。このことから強制劣化試験では文化財資料の劣化と大きく異なることが考えられた。 (3)の実験では銅イオンが絹のフィブロイン分子と配位結合し、実験時間の増加にともなって物性強度及びIRスペクトルに大きな変化が見られた。特にAmide I, IIは1ヶ月前後で大きな変化が見られ、6ヶ月後にはAmide I, IIのピーク形状において、Amide IIとAmide Iの同化が発生し、ショルダーピークに変化することがわかった。このパターンは特に文化財資料に多く見られるパターンである。以上の研究から、銅の配位結合のように、フィブロイン分子鎖のAmide基に対して強い影響を及ぼす実験を行うと、文化財資料で得られる特殊なIRスペクトルのパターンが発生することが分かった。
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