2011 Fiscal Year Annual Research Report
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22700846
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
赤田 昌倫 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 特別研究員(アソシエイトフェロー) (90573501)
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Keywords | 絹 / 文化財 / 赤外分光分析 / 偏光 |
Research Abstract |
出土絹繊維は国内での出土例も多く、歴史研究に重要な意味を持つ文化財として認識されているが、劣化の基準となる指標がなく、保存処理方法の検討も進んでいない。そこで本研究では出土絹繊維の劣化状態を把握し、保存処理に役立てるための基準作成を目的とした研究を行っている。今年度は実際の出土絹製品について分析を行い、劣化状態の基礎情報を得る研究を行った。絹繊維は繊維軸方向と横断方向とで異なる劣化状態であることが考えられたため、絹繊維の偏光特性を理解し劣化との関連性を検証した。分析には赤外分光分析を用いた。0°の繊維軸方向(//)~90°の繊維軸横断方向(⊥)まで10°ごとに角度調整し、出土絹繊維の偏光特性を検証した結果、粉末に近い状態まで劣化した出土絹繊維でも偏光特性が得られることを確認し、角度を変えてもAmideIよりもAmideIIの変化が顕著にみられることがわかった。次に、現代参照絹と出土絹繊維とでAmideIとAmideIIのピーク強度比の平均値を求めた結果、現代参照絹では繊維軸方向(//)I=0.77、繊維軸横断方向(⊥)I=2.30の数値が得られ、出土絹繊維では繊維軸方向(//)I=0.81、繊維軸横断方向(⊥)I=4.14の数値が得られた。繊維軸方向(//)では現代参照絹と近い数値を示したのに対して、繊維軸横断方向(⊥)では現代参照絹と比べ約2倍近くピーク強度比が変化していることがわかった。結晶化度については、繊維軸方向(//)で現代参照絹の平均値がC=0.078であるのに対して、出土絹繊維では平均値がC=0.451と、約5倍以上値が大きいことがわかった。繊維軸横断方向(⊥)では現代参照絹がC=0.232であるのに対して、出土絹繊維ではC=0573と、やはり値が大きいことがわかった。このことから、劣化度を示す基準値としては繊維軸方向に分析したデータを使うのが最も適していることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
出土文化財をモデルとした実験試料の分析と、実際の文化財試料の分析が順調に進んでおり、これらのデータから、劣化度を示すパラメータを確認することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で赤外分光分析から劣化度を示す数値を示すことができたので、この劣化を示す数値と物性強度の数値とをプロットし関連性について検証する。 実験試料についても、博物館や美術館資料を想定し、キセノンランプを使用し紫外~可視光によって劣化した試料を作成、これまでの劣化度算出法を当てはめることが可能か検討する。
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