2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22700848
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Research Institution | The National Museum of Western Art, Tokyo |
Principal Investigator |
高嶋 美穂 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, 研究補佐員 (80443159)
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Keywords | 芸術諸学 / 蛋白質 / 分析科学 |
Research Abstract |
本研究では、絵画から採取した試料のクロスセクション上で、蛋白質のメディウム(動物膠、卵)を同定することを目的としている。蛋白質を染色する試薬として生化学分野で用いられている染色液が数種類あるが、油彩画の地塗りとしてよく使用される炭酸カルシウムや鉛白は酢酸、りん酸に反応してしまうので、これらを含む染色液を用いるとクロスセクション上の絵具層の表面がガサガサに荒れたり脱落してしまい、染色液により染色されたかどうかの判断が困難になることがわかった。そこで、まずは酸性フクシンの0.8%水溶液、アミドブラック10Bの0.1%水溶液、ポンソーSの1%酢酸飽和溶液を染色液として用いることにした。また、蛋白質の同定を確実にするために、油脂染色用としてスーダンブラックBを用いてクロスチェックをすることにした。次に、動物膠の主成分であるコラーゲンと、卵の主成分であるオブアルブミンに対する3つの試薬の感度を、ニトロセルロース膜を用いたドットプロット法で調べたところ、酸性フクシンとアミドブラック10BはポンソーSより感度がよいこと、どの試薬でもコラーゲンに対する感度が、オブアルブミンに対する感度よりよいことがわかった。 一方で、地塗りに彩色層を1層重ねた絵画資料を作成した。地塗りは炭酸カルシウムおよび石膏で、いずれもメディウムは動物膠である。これらの地塗りに膠や乾性油で吸収留めを施した後、彩色層を重ねた。彩色層には、顔料としてアズライト、ウルトラマリンなど数種、メディウムとして動物膠、卵白、卵黄、アラビアガム、乾性油を用いた。この絵画資料からクロスセクションを作成して蛋白質を同定できるかどうか、次年度以降に調べる。特に、彩色層のメディウム(例えば乾性油)が地塗りに染み込んだ場合でも地塗りが蛋白質だと同定できるか、吸収留めの膠層がごく薄い場合でも同定できるかどうかに重点をおいて調べる。
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