Research Abstract |
中国西北地方の黒河流域を対象とした流域水収支解析の結果,農作物を栽培するために用いられる水資源量の約86%がブルーウォーター起源で,その27%が地下水起源であることがわかった.また,当該地域で生産された農作物のライフサイクルについて,主要農産品目である種用とうもろこしと野菜類に焦点を当てて聞き取り調査を行った,種子企業に対する調査の結果,当該地域で生産された種用とうもろこしのほとんどが,山東省,河南省などに輸送されることがわかった.野菜類に関しては,張掖市にある3つの市場すなわち甘州市場,臨澤市場,高台市場における調査の結果,主な輸送先は甘粛省,青海省,陳西省であることがわかった.野菜類の輸送量は種類や季節によって異なるものの,流域外への輸出量は流域内のそれを著しく上回っていることがわかった.野菜の非可食部を含む食品由来の廃棄物が養豚場などにおいて利用されているという事実が確認されたものの,張掖市の産業構造は依然として比較的に多くの水を消費する灌漑農業に基づいており,深刻な水不足に陥ったままである.水不足の根本的な解決をはかる上で,今後は水消費量の少ない産業構造への転換やヴァーチャルウォーターの輸入への転換などの検討が必要と考えられる.さらに,対象地域に含まれる甘粛省張掖市が中国の環境政策「節水型社会建設」の最初のパイロット都市に指定されていることから,節水政策前後の土地・水利用変化とそれに伴う水収支変化を解析するとともに,政策に対する住民の認識や経済状況の変化を明らかにするために聞き取り調査を行った,その結果,ステークホルダー間で,対応や認識に矛盾があることがわかった.作物体系の転換に伴う灌漑回数と用水量の減少によって農民レベルで節水された2.0×10^8m^3a^<-1>は,主に農業企業によって新たに開墾された農地における蒸発散(2.6×10^8m^3a^<-1>)として消費されていると考えられる.地下水の取水量も増えており,問題となっている地下水位の低下に拍車をかけていると考えられる.
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