Research Abstract |
DNA損傷に対するチェックポイント因子であるATMが,DNA損傷非依存的に酸化ストレス物質である過酸化水素によって活性化し,その活性化には二つのATMが2991番目のシステイン残基でジスルフィド結合することが必要であると報告された.そのため,本研究では,本研究で使用している酸化ストレス物質15d-PGJ2と過酸化水素に対する細胞応答を比較解析した.また,ATMは糖尿病などで異常となる代謝系の制御機構にも関係していると報告されたため,15d-PGJ2や糖尿病治療薬の一つであるメトホルミン処理によるATMを介した代謝系への影響を解析した. その結果,15d-PGJ2刺激では,過酸化水素の場合に見られるATM同士のジスルフィド結合が起こらないこと,また,15d-PGJ2,過酸化水素,メトホルミン処理のいずれにおいても,代謝制御機構の一つであるS6Kの脱リン酸化反応がATM依存的に起こることを明らかにした.さらに,ATMの過酸化水素反応性システイン2991をアラニンに変異させた変異型ATMを作製して解析し,S6KのATM依存的脱リン酸化反応がATMのシステイン2991に依存している可能性を発見した.以上から,酸化ストレスに対するATMの応答反応では,システイン2991が重要であるが,それを介したATM間のジスルフィド結合は必ずしも必要では無いこと,15d-PGJ2やメトホルミンに対するATMを介した細胞応答は,システイン2991を介して起こり,代謝系を制御するものであることが明らかになった. DNA損傷のチェックポイント因子として広く認識されてきたATMが,酸化ストレスに対しても応答し,それが代謝系の制御機構につながっていることを明らかにしたことは,ATMが原因で起こる毛細血管拡張性運動失調症で見られる小脳変性や毛細血管拡張,老化,発がんなどの機構解明のために意義あるものである.
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