2011 Fiscal Year Annual Research Report
トキの主要な採餌環境である水田における生物多様性の決定要因の解明と応用
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22710233
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
武山 智博 大阪市立大学, 大学院・理学研究科, 特任講師 (70452266)
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Keywords | 水田生態系 / トキの採餌環境 / 生物の種多様性 / 水生昆虫群集 / 局所・景観環境要因 / 一般化線型モデル |
Research Abstract |
本研究の目的は、佐渡島に再導入されたトキの主要な採餌環境である水田を、生物量と生物多様性が高い状態に再生するため、水田内の局所スケールおよび水田周辺の景観スケールでの環境の異質性に着目し、再生の高い効果が期待される地域(水田群)を抽出のための統計モデル構築である。本年度は、水田に出現する水生昆虫の種多様性を、局所および景観環境要因で予測するモデルの解析を行った。解析には水田内の局所環境要因とし5変数(水温、水深、植生被度、水田もしくは休耕田、江(水田内の小土水路)の有無)を用いた。水田周辺の景観環境要因として用いた4変数(水田面積、休耕田面積、ため池面積、林縁総延長距離)の算出は、GISデータベース上で行った。調査対象の水田の重心より同心円状に8サイズのバッファ(半径50、100、200、300、400、500、750、1000m)を発生させ、バッファごとに景観要因4変数を算出した。昨年度までの研究結果より、水田に生息する水生昆虫のうち出現種数の多かった水生コウチュウ目、水生カメムシ目、トンボ目(幼虫)を対象に、それぞれのグループの出現種数を局所と景観要因で予測する多変量モデル解析を行った。この解析には、各バッファにおけるすべての環境要因の変数を総当たりで組み込んだ一般化線形モデル(GLM;負の二項分布を仮定)を用いた。得られた複数のモデルのうち、赤池の情報基準(AIC)の値が最小となったバッファサイズおよび変数の組み合わせを、「最良モデル」として採用した。 その結果、コウチュウ目における最良モデルはバッファサイズ50mで得られ、出現種数に対し植生被度は正の効果を、休耕田面積および林縁長は負の効果を及ぼした。カメムシ目ではバッファサイズ500mで最良モデルが得られ、出現種数に対する正の効果が林縁長でのみ認められた。トンボ目(幼虫)では最良モデルがバッファサイズ500mのときに得られ、植生被度と水深が出現種数に対して正の効果をもたらす一方、水田面積が負の効果をもたらすことが判明した。 以上の結果から、水生昆虫の種多様性を決定する局所および景観環境要因が分類群に応じて異なること、さらに出現種数に影響を与える環境要因のスケール(範囲)も分類群ごとに異なることが明らかになった。従って、水田の水生昆虫の種多様性の復元や維持に対しては、分類群ごとに異なる保全対策を適用する必要性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水生昆虫の種多様性の評価のために昨年度行った標本の同定作業の結果に基づき、水田に生息する水生昆虫うち、出現種数の多かったコウチュウ目・カメムシ目・トンボ目幼虫それぞれについて、水田内の局地環境要因と水田周辺の景観要因の異質性と種多様性との関係について検討するためのモデル分析を行った。これは、当初、本年度に予定していた計画の通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究結果より、水田の水生昆虫の種多様性を予測するモデルが構築されたため、これらのモデルをGIS上で佐渡全域の水田に対して外挿し、種多様性の予測マップを構築する予定である。これにより、研究課題の目的の一つである、水田再生事業の効果が高いと見積もられる対象地域を図示した「ポテンシャルマップ」の提供が可能となる。今後は、本研究のもう一つの目的である、水生昆虫のメタ個体群の分布を決定する距離スケールと環境要因を解明するため、今回の解析結果から得られた環境要因の組み合わせとスケール(バッファサイズ)に着目した現地調査を進める予定である。
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[Presentation] The ancient Lake Biwa as a model of Asian lake ecosystems : historical and geographical patterns of biodiversity2012
Author(s)
SHIBATA, Junya (CER, Kyoto Univ), KARUBE, Zin'ichi (NIES), SAKAI, Yoichiro (CER, Kyoto Univ), TAKEYAMA, Tomohiro (Osaka City Univ), TAYASU, Ichiro (CER, Kyoto Univ), SATOH, Yuichi (Lake Biwa Environmenal Research Institute), YACHI, Shigeo, NAKANO, Shin-ichi, OKUDA, Noboru (CER, Kyoto Univ)
Organizer
5th EAFES International Congress
Place of Presentation
大津市龍谷大学
Year and Date
2012-03-19
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