2011 Fiscal Year Annual Research Report
戦後社会におけるジェンダー・セクシュアリティ秩序の形成と新たな親密性の構築
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22710263
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
赤枝 香奈子 京都大学, 文学研究科, 特定助教 (00536576)
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Keywords | ジェンダー / セクシュアリティ / 同性愛 / レズビアン / フィンランド |
Research Abstract |
本研究は、近代西欧に由来する「同性愛」という知が、非西欧社会における同性同士の親密な関係にいかなる影響を及ぼしたか、とくに「レズビアン」などと呼ばれてきた女性同士の親密な関係に注目し、近現代社会を支えたジェンダー・セクシュアリティ秩序の生成と、その過程で生み出されてきた、従来の家族とは異なる新たな親密性について考察することを目的とする。その際、日本とフィンランドという女性同性愛に対し異なる抑圧形態をもった二つの国を比較し、近代的性規範を構成する多様で矛盾に満ちた要素を浮かび上がらせながら、新たな親密性が生み出される社会的条件や政治的力学について検証する。 平成23年度は22年度に引き続き、異性愛の規範化およびそれと表裏一体として起こった同性愛批判のプロセスを考察するため、日本については国会図書館や日本近代文学館等で関連資料を収集した。特に22年度調査から明らかになった戦後日本のジェンダー・セクシュアリティ秩序において特徴的と言える、男性的な女性の社会的位置づけについて、戦前の資料も含めて調査、研究を行い、その成果をクィア学会第4回大会で報告した。 男性的な女性については現在、クィア・スタディーズで扱われる重要なトピックの一つである。セクシュアル・マイノリティのみならず異性愛者も含みこむカテゴリーとして、現在、フィンランドも含め世界的に「クィア(Queer)」の概念が広く、急速に浸透しつつある。同性婚等、従来の家族とは異なる新たな親密性について先鋭的な議論を行っているのもこの研究領域である。そこで、フィンランドでの現地調査を平成24年度に延期することにし、Queerについて集中的に文献調査を行った。 戦後日本については、セクシュアリティ規範の形成にかかわる事象について広く文献調査を行った結果、同性愛批判言説は、戦後間もなく発刊された雑誌等に見られるポルノグラフィックな性描写の氾濫、赤線の成立と廃止、純潔教育に見られるような「正しい」異性愛教育、フリーセックス・ブームなどと密接に関連しつつ、戦後日本のセクシュアリティ規範の一翼を担っていたことが明らかになってきた。本研究の最終年度となる平成24年度は、このプロセスを現代まで射程を広げて解明するため、引き続き歴史資料の収集を行う。その際、特に、これまでのセクシュアリティ研究で見過ごされてきた、日本のレズビアン・サブカルチャーに焦点を当てて調査する。また、フィンランドでは、同性婚/同性間パートナーシップ制度、およびセクシュアル・マイノリティのサブカルチャーにかんする現地調査を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの調査から、日本における同性愛批判の言説の浸透が、それ自体単独ではなく、戦後セクシュアリティ規範の形成という流れの中に組み込まれていたことが、より具体的に解明されてきたから。すなわち、同性愛批判言説は、ポルノグラフィックな性描写の氾濫、「正しい」異性愛教育、フリーセックス・ブームなどと関連しつつ、戦後日本のセクシュアリティ規範の一翼を担っていたことが明らかになってきた。また日本の場合、ジェンダーの越境、特に女性から男性への越境について、1970年代以降厳しく批判されるようになったこと、また、そのような男性的女性の扱いに、日本のジェンダー・セクシュアリティ秩序の特徴があることがわかってきたから。
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Strategy for Future Research Activity |
クィア・スタディーズの急速な進展のため、その資料収集および読解に予想以上に時間がかかり、フィンランドの調査についてはまだ十分には進展しているとはいい難い状況である。ただ、クィア概念の浸透はグローバルな現象であり、フィンランドもその影響下にあること、また同性婚等新たな親密性についての議論が最も活発になされているのがこの研究領域であることから、必要不可欠な作業であると考える。そこで、当初予定していたフィンランドでのインタビュー調査の規模は縮小し、文献調査の充実を優先させる予定である。
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Research Products
(1 results)