2011 Fiscal Year Annual Research Report
規範や心を正当に扱うための多元論的自然主義モデルの構築
Project/Area Number |
22720007
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
井頭 昌彦 一橋大学, 大学院・社会学研究科, 講師 (70533321)
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Keywords | 自然主義 / 規範 / 心 |
Research Abstract |
平成23年度の課題は(1)規範的事実や心的事実を正当に扱いうる自然主義的立場の構築、および、(2)そのための多元論的モデルの提示、の2点であった。 これらの課題に関して、平成23年度は、心的概念であり、かつ道徳的配慮という現象を考える上で重要な検討対象となりうる「痛み」という概念に焦点を当てて、考察を進めた。「痛み」に関しては、神経科学の発達に伴っていわゆる「自然化」の機運が大きく高まりつつあるが、他方でその現象的側面に関してはいまだ十分な説明が確立されてはおらず、また、一人称報告と神経科学的診断のズレをどう処理するか等の問題点が指摘されている。こういった問題を処理するために、本研究では、「痛みとは何か?」という問いから「我々は痛みという語をどう理解しているか?」という問いへと焦点をシフトさせた上で、我々がいかに「痛み」という語を学習し、それをどのような仕方で変容させてきているか、についての基本的なモデルを構築した。このモデルについては随所で発表し、批判を仰ぎながら微修正を続けている。 さて、このモデルと「多元論」という考えを組み合わせると、《痛み》に関する絶対的に正しい概念理解というものが一元的に存在するのではなく、様々な場面・課題・用途に応じた「痛み」という語に関する「正しい用法」が多様な仕方で存在することになる(他方で、発生論的な経緯からして、学習期に用いられた「三人称視点の用法」の正しさはある種のデフォルト性を持つことにはなる)。また、多元論との接続によって自然科学的な用法が特権化されなくなるため、痛み概念の規範的ディスコースへの接続が容易になる、というメリットを指摘することもできる。したがって、本研究は、「規範や心を正当に扱うための多元論的自然主義モデルの構築」という課題に対して十分な寄与を成しえた、という事ができる。
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