2010 Fiscal Year Annual Research Report
近代のドイツと日本におけるカント平和論の軍国主義的利用とその問題点に関する研究
Project/Area Number |
22720013
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
伊藤 貴雄 創価大学, 文学部, 准教授 (70440237)
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Keywords | 哲学 / 倫理学 / 思想史 / 平和論 / 社会史 / カント / 徴兵制 / ドイツ |
Research Abstract |
1、大別して二つの方向から研究を進めた。(1)、カント自身の政治思想の内実を精確に把握する作業。(2)、カント没後の平和論受容史を探索する作業。いずれについても最初に関連分野の専門家の助言を頂きつつ、国内外の古書店や図書館を通して資料を購入・複写した。19世紀ドイツの文献はフランクフルト大学図書館でも収集した。 2、上記(1)については、研究開始後、カント平和論の形成過程を丁寧に押さえることの重要性に改めて気づき、とくに理論的中核をなす「世界市民」という概念を中心に検討を行った。研究内容は日本のカント研究会第243回例会、第248回例会で口頭発表した。カントにおける世界市民概念の成立背景に七年戦争への批判があったことを解明した点にオリジナリティがあり、その成果は平成23年度に『現代カント研究第12巻』に論文として掲載される予定である。 3、上記(2)については、現在出版準備中の博士論文『初期ショーペンハウアー哲学の社会哲学的研究』の内容と連動する部分もあり、とくに時代的に重なるフィヒテを中心にカント平和論受容史を検討した。研究内容は日本の第5回三宅アーベント、ドイツの第5回ショーペンハウアー・コロキウムで口頭発表した。カントの世界市民主義がドイツの国民国家思想と一体化していく過程を、徴兵思想に注目しつつ検証した点にオリジナリティがある。なお平成22年度刊行の論文「フィヒテのペスタロッチ受容」「フィヒテ意志論からショーペンハウアー表象論へ」「牧口常三郎の戦時下抵抗」、および翻訳『ヘルマン・ヘッセエッセイ全集8-時代批評-』は、いずれも部分的にカント平和論受容史を論じた点で、本研究と間接的に関わりのある研究成果である。 4、以上の二方向からの研究を一つの繋がりにおいて把握する作業が、平成23年度の課題となる。当面、カント晩年から死去直後の時代を中心に、世界市民主義と徴兵思想との両義的な関係について検証する予定である。
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Research Products
(8 results)