2010 Fiscal Year Annual Research Report
鬼神論における民間信仰と呪術:宗教社会学的議論の分析
Project/Area Number |
22720036
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
鈴木 孝子 国際基督教大学, アジア文化研究所, 研究員 (70459006)
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Keywords | 日本思想史 / 鬼神論 / 宗教社会学 / 近世日本史 / 文教政策 / メディア論 / 儒教解釈 / 神道解釈 |
Research Abstract |
平成22年度の研究において、林羅山と山崎闇斎の儒教解釈に内在する政治性を分析し、彼らの問題意識が、当時の徳川幕府の宗教政策上の指針と連動している点を指摘した。宗教社会科学的な問題設定を立てて思想分析を進めた点に本研究の意義がある。 林羅山と山崎闇斎に関する先行研究は主として文献学的な方法論に基づいて進められてきた。本研究は両者と同時代の宗教政策上の動向と対照する形で思想分析を進めた結果、彼らの儒教解釈に内在する仏教寺院と神仏習合的な神道論に対する批判的主張が幕府の政治的配慮と軌を一にする一面が解明された。両者の鬼神論において民間信仰、民俗学的関心が希薄である点も、当時の幕府の宗教政策上の指針が既存の宗教教団に対する組織的統制に重点が置かれていた事情に由来すると言える。近世初期の思想家の課題は宗教的公式見解を提示し広く定着させることにあったと想定される必要がある。 林羅山の思想解釈において、宗教政策上の配慮が顕著であるのは神社の由緒に関する著作である。彼が日本の神社の縁起から神仏習合的な要素を払拭するために、『本朝神社考』において書籍の秘匿を批判している点に注意する必要がある。これは情報開示の請求であり、羅山が書物による情報伝達の重要性を認識していた証であると言える。情報伝達の意義を認知した宗教論が誕生した点に留意したい。また同様に山崎闇斎が『文公家礼』に則った葬送儀礼の実践を主張した根底に、政治的配慮が内在していると言える。闇斎の場合、宗教政策上の問題意識は藩政運営における文教政策への関心として展開されている。林羅山も山崎闇斎も単に理論的な儒教解釈や講釈に専念した思想家ではなかった。両者は個々の立場から思想と社会の接点を模索しつつ宗教的公式見解の提示と共通見解の普及を主要命題として掲げていた側面があると考えられる。以上を問題提起し、当該年度の研究報告とする次第である。
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Research Products
(1 results)