2011 Fiscal Year Annual Research Report
鬼神論における民間信仰と呪術:宗教社会学的議論の分析
Project/Area Number |
22720036
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
鈴木 孝子 国際基督教大学, アジア文化研究所, 研究員 (70459006)
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Keywords | 鬼神論 / 宗教政策 / 民間信仰 / 儒教理解 / 死生観 / 神道 / 葬送儀礼 / 民俗学 |
Research Abstract |
当該年度では林羅山の『本朝神社考』を中心に彼の鬼神論および民間信仰に関する議論の宗教施策上の問題意識を分析した。その研究成果を国内で開催された日本研究の国際学会で学会発表をした。林羅山は神社縁起における神仏習合的な内容を文献学的に批判し、書物による情報開示と出版事業によって普及定着を図った点を指摘した。林羅山に於ける宗教政策上の意図は情報開示に内在していると想定される。 次いで新井白石と同時代の他の思想家の鬼神論を比較分析する作業に着手した。当初は荻生徂徠と伊藤仁斎、太宰春台を主要な比較対象と掲げていたが、実は崎門派による各地方での教化活動を視野に入れる必要が明らかになり、日本の宗教的実情に批判を展開した太宰春台の議論に集中して学会発表をした。春台の議論を参照すると当時の一般的宗教動向が分かり、民心の動揺と迷信が新たな宗教的流行を生み出すことを警戒しており、この点は荻生徂徠から多くを得ていると言える。徂徠も宗教団体が政治活動へ傾斜する危険性を強く認識していた。しかし、荻生徂徠の場合、鬼神を論ずる際には祭祀と礼楽論に終始している。信心と政治が結びつく問題点は政策提言の中で明示されており、管見の限り、怪異現象の分析は天狗の考証を記した小論にて言及されるのみである。徂徠が葬送儀礼に関する手引きを残している点も白石とは大きく相違する。どこまでを鬼神論として議論するか両者の違いが生じた内在要因を追求する課題が残された。今年度の反省点は、当時の民俗学に関する分析方法が絞れなかった一事に尽きる。公的な鬼神論は葬送儀礼と国家祭祀と神社を中心とする信心の動向を中心に議論が展開している感がある。なお、新発田市にて実施した資料調査を通じて、民俗学的な事柄が議論される事例は、教育の場で展開されるケースがあるという知見を得た。次年度にて議論を深めることとしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新井白石と同時代の思想家たちの鬼神論研究は主として二つの方向に議論が集中している。それらは礼楽に基づいた政策論の分析および文公家礼に基づいた葬礼の実践である。民俗学的問題意識は存在するものの、それらを鬼神論から分けて別の小論にて議論しているケースなどもあり、資料の追跡に労を要した。神社縁起および風土記研究という視座の導入を検討する等、資料分析の際の柔軟性を高める必要があると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
新井白石と他の知識人の鬼神論を比較する作業と、鬼神論に内在する民俗学的問題意識がいかに宗教政策と相互に連関しているかを分析する方針は変更しない。ただ、主要な思想潮流が地方の城下町および在郷知識人の学問サークルに広まる際に生じた変化、発展の内実に着目する必要はあろう。むしろ、三都から地方のコミュニティーに鬼神論が広がる過程でこそ、地元の風俗風習との軋轢が生じたと想定されるべきである。 地方の知識人の視点および民衆教化の担い手こそ宗教政策上の配慮と民俗学的問題意識が形成されたことが明らかになった。地域社会の再建と道徳教育の振興に民間伝承と民俗学的知見がいかに展開されるかを検証することとしたい。次年度の研究では啓蒙活動の観点から平田篤胤の鬼神論を分析することとする。 最後に、新井白石が『鬼神論』を執筆する中で、何故に怪異現象の議論と妖怪変化の分析に紙幅を割いて議論を展開したのか、改めてその理由と意義を分析することとする。
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Research Products
(2 results)