2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22720037
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
折井 善果 日本大学, 商学部, 講師 (80453869)
|
Keywords | キリシタン史 / 比較思想史 / スペイン文学 / 文献学 / 地域間交流史 |
Research Abstract |
本年度は、『ひですの経』の原典的研究を行う上での大前提となる、欧文原典の特定という文献学的作業に主に従事した。1583年のスペイン語初版以降、ルイス・デ・グラナダのスペイン語原典はマドリッド、バルセロナを中心に数多く出版されている。しかし1586年にベネチアからラテン語版が出版され、また1587年にはジェノバからイタリア語訳が出版されていることから、それら諸語・諸版の異同(テキストクリティーク)の作業が必要であった。それらの異同がキリシタン版の語句・語彙に反映されている決定的な例は未だ確認できていないが、聖句引用箇所の誤り、地名や人名の音訳表記等の分析から、『ひですの経』の翻訳にスペイン語版が使用された形跡は結果として明らかになった。 また、可能な限りの諸版をヨーロッパの文書館で参照した結果、『ひですの経』29、30章に存在する「あにまらしよなる(Anima Racional、理性的霊魂)」とその不滅に関する長文の言及が、いずれの原典にも存在しないことが明らかになった。すなわち霊魂とその不滅に関する言及は、『ひですの経』の翻訳者・あるいは編纂者によって大胆に加筆されたものであることがわかった。霊魂とその不滅論は当時の中国布教における漢訳教理書においても重要なテーマであり、それらとの内容的な影響関係が今後の課題として提示された。このことは、日-欧という二国間関係に依拠して解明されようとしていたキリシタン思想史の研究に、東アジア地域間交流という新たな視点をもたらす必要性を示唆するものであると思われる。
|
Research Products
(2 results)