2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22720037
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
折井 善果 慶應義塾大学, 法学部, 専任講師 (80453869)
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Keywords | 思想史 / 東西交渉史 / キリシタン文献学 / 異文化接触論 / 出版文化史 |
Research Abstract |
これまでの二年間の主な成果として『ひですの経』校注本(教文館・2011年)とファクシミリ版(八木書店・2011年)を刊行した。釈文・校註・解説の執筆過程で明らかになったのは主に以下の二点である。 まず、キリシタン版の「再発見」の必要性である。所謂キリシタン版は、ラウレス神父(Johannes Laures,1891-1959)の没後、所蔵が一度も確認されずに現在に至っているものが多くある。この半世紀の間に個人の所蔵者が没し、行方不明になっていたことが気づかれずに、突然海外の大学のデータベースでヒットするという、『ひですの経』ど類似した事実が、本年度さらに一例確認された。欧米に残存するキリシタン版の現状を精査し、書誌学的情報としてまとめることによって、文化遺産保存の一助とするための先鞭をつけることができた。 次に、キリシタン版を、日本人のキリスト教受容の実態の解明のみならず、当時のヨーロッパ(イエズス会)の思想的動向をうかがい知るテキストとして検討することの必要性である。対訳分析の過程で、自然と意志のアウグスティヌス的結合を説く「愛(キリシタン用語では"あもる")」についての言及や、ポンポナッツィ(1462-1525)によって批判された考え方である「来世賞罰」についての言及などが『ひですの経』では原典と比較すると強調されていることが明らかになった。このことは、従来「アリストテレス-トマス」の枠組みで一枚岩的にとらえられがちであった当時のイエズス会の知的背景の理解に再考を促すことにも通じると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
校注本、ファクシミリ版の両方を、二年目である本年度においてすでに出版できたため。また国際学会で外国人研究者を含むパネル発表を行い、今年度も『ひですの経』の存在を海外にアピールすることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
欧米に残存するキリシタン版の現状を精査し、書誌学的情報としてまとめることによって、文化遺産保存の一助となる資料をまとめ上げる。また、すでに数点発表されている拙著(編著・校註)の書評を活用しながら『ひですの経』の内容分析をさらに行い、当時のイエズス会の知的背景の理解に努める。
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Research Products
(2 results)