2010 Fiscal Year Annual Research Report
レコンキスタ期イベリア半島のキリスト教写本芸術と異文化交渉に関する基礎的研究
Project/Area Number |
22720041
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
久米 順子 東京外国語大学, 大学院・総合国際学研究院, 講師 (60570645)
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Keywords | 美術史学 / 装飾写本 / キリスト教美術 / スペイン / 写本学 / レコンキスタ |
Research Abstract |
3年計画の研究の第1年次にあたる本年度の後半には、スペイン各地の図書館での写本実見調査出張、ならびに非欧米圏における中世研究について歴史学・美術史学の研究者との意見交換を目的とした中南米出張を予定していた。しかし秋頃判明した妊娠とそれに伴う体調の不安定さのため、海外出張はいずれもキャンセル・延期せざるを得ず、研究計画の進行と支出の予定に大きな変更が生じた。 こうした事情のため、年度を通して、写本芸術に関する文献資料および711-1492年のレコンキスタ期の異文化交渉に関連する図版資料の収集と整理を行った。同時に、図版や先行研究が入手できたものから、当初研究の2年次以降に計画していた写本の個別研究を先取りする形で開始した。 具体的には、トレド司教であった聖イルデフォンススによる『聖母マリア童貞論』のテキストを擁する装飾写本2冊を取り上げた。イスラーム支配下のトレドという異文化圏に身を置くキリスト教徒が制作した作例である1067年の《フィレンツェの聖母マリア童貞論》と、12世紀初頭にフランスのクリュニー会周辺で制作され、北スペインのレオン王アルフォンソ6世に贈られたと先行研究で見なされてきた《パルマの聖母マリア童貞論》である。両者は、基本的に同一のテキストに基づくにもかかわらず、その挿絵の図像には大きな相違がある。端緒を開こうと両写本の装飾プログラムの比較と分析を口頭発表で行ったが、それぞれの作品が周囲に与えた影響や図像学的源泉といった問題については今後も研究を深めていく必要がある。
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