2012 Fiscal Year Annual Research Report
レコンキスタ期イベリア半島のキリスト教写本芸術と異文化交渉に関する基礎的研究
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22720041
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
久米 順子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 講師 (60570645)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 装飾写本 / 中世キリスト教美術 / スペイン / 写本学 / レコンキスタ |
Research Abstract |
本年度の研究実施計画に基づき、前半は711-1492年のレコンキスタ期の写本芸術に関する先行研究の渉猟と、異文化交渉に関連する作品の基本データの収集を前年より継続して行った。 年度の後半には、レオン=カスティーリャの初期ロマネスクを取り上げ、ヨーロッパからイベリア半島に新たにもたらされたロマネスク様式が王家の主導によって取り入れられたのは何故だったのかという点を、彼らの主導した西ゴート・リヴァイヴァルとの関連から分析し、口頭発表と論文を通して考察を深めた。 年度末にはメキシコでの国際コロキウムに参加した。当初はメキシコ・シティで開催予定の第14回中世学国際集会へ参加する予定であったが、この集会が歴史よりももっぱら文学領域を対象としているとの情報を得たためにこれを取りやめた。その代わり、旧知のメキシコ自治大学のリーオス博士とのやり取りの中から、ヨーロッパから地理的文化的に遠く離れた環境での西欧中世研究について研究者同士が集まって直接言葉を交わすというアイディアが生まれ、メキシコ国立自治大学歴史学研究所長の賛同を得てそのためのコロキウムを開催できることとなった。西欧中世の遠隔地で西欧中世を研究する意味、その利点と研究の限界、史料入手の困難など実際的な問題点とその解決法などについて南米の研究者たちと議論を行う中で、今後の研究の方法や方向性についてさまざまな示唆を得ることができ、個人的に非常に有意義なコロキウムとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
711-1492年のレコンキスタ期スペインの写本芸術に関する先行研究の渉猟と、イスラーム、ユダヤ教、ローマ教皇庁やフランスのクリュニー会といった様々な集団間の異文化交渉に関連する作品の基本データの収集に関してはおおむね順調に進展している。 当初からの計画にあった非欧米圏における西欧中世歴史学・美術史学の研究者との意見交換も、2013年2月のメキシコにおける国際コロキウム「異なる視野から見たヨーロッパ中世:理論と方法論の諸問題」の開催とそれへの参加という形で実現し、予想以上の収穫を得ることができた。 一方、初年度に研究に着手した2冊の聖イルデフォンススによる『聖母マリア童貞論』写本に関しては、挿絵の図像同定、テキストとの照合といった写本挿絵研究の基礎的作業は終了したものの、分析を深める段階で困難にぶつかっている。1冊目の1067年の《フィレンツェの聖母マリア童貞論》に関しては、イスラーム支配下にあったトレドにおけるキリスト教徒たちの文化的環境をもう少し調べると同時に、図像的源泉を幅広く追求する必要がある。フランスのクリュニー会周辺で制作された2冊目の《パルマの聖母マリア童貞論》は、スペインでコピーが作られたことが分かっている。そのコピー写本(スペイン国立図書館所蔵)の実見調査自体は済んでいるが、いつどこで誰が用いるために作られたのか、制作の背景を解明したい。
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Strategy for Future Research Activity |
先述した2冊の聖イルデフォンスス『聖母マリア童貞論』写本の問題については、10-11世紀のトレドの修道院に関する先行研究と写本学・文献学の先行研究をそれぞれ詳細にあたっていきたいと考えている。その種の文献が揃っている場所は限られるが、トレドの郷里史に詳しいラ・マンチャ州立図書館、写本学に関するレファレンス資料が豊富なスペイン国立図書館写本室、中世史・美術史・文献学の研究書が揃うスペイン国立高等学術研究院図書館などで広範な文献調査を行うことができれば解決の糸口が見えてくるのではないかとの感触を得ている。 非欧米圏での中世研究者たちとの連携に関しては、メキシコでのコロキウム閉会時に、2015年にアルゼンチンのマル・デ・ラ・プラタ大学で同コロキウムの第2回大会を開催し、さらに議論を深めていくことを参加者間で確認した。メールなどによるコンタクトを通して具体的な開催計画を詰めていく予定である。 本課題は来年度が最終年となる。写本の個別研究をできる限り進める一方、それらの個別研究を統合しうる大局的な観点を理論面および実際の作例の両面から構築していく必要があると考える。
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Research Products
(4 results)