2011 Fiscal Year Annual Research Report
南アジア古代・中世における仏教説話図の受容と変容ー建築空間と表象の相関をめぐって
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22720047
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
福山 泰子 中部大学, 人文学部, 准教授 (40513338)
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Keywords | 南アジア / 仏教説話 / アジャンター / 従三十三天降下 / 帝釈窟説法 |
Research Abstract |
本研究は、南アジア古代・中世における仏教説話図の受容と変容の様相を、建築空間という意味付けられた領域としての「場」と、壁画や彫刻による「表象」の相関をめぐって提示するものである。説話図は教化、礼拝、観想など宗教実践の場として重要な機能を有する建造物に中心的に、あるいは周縁的に同居している。本年の実地調査では、アジャンターを含む周辺石窟寺院、博物館収蔵の初期仏教美術浮彫、パーラ時代の建築やカシミールのハルワーン遺跡、アーンドラ地方の遺跡出土物について調査した。また引き続き、デッカンカレッジ付属図書館やニューデリー国立博物館、インド考古局において文献資料収集をはかった。特に近年新発見のカンガンハリ遺跡の発掘責任者より発掘当時の状態資料を閲覧する機会が得られたのは有意義であった。 また、神々を教化す仏陀に重点をおいた「従三十三天降下」や「帝釈窟説法」を取り上げ、説話主題と仏殿本尊の位置づけについて検討した。仏伝諸相図の中心にいずれかの主題を配すクシャーン朝マトゥラーでは明らかに神々の王としての帝釈天や三十三天を重視する傾向が窺え、アジャンター窟内では両主題は仏殿前室やヴェランダ後壁・側壁に位置するものの、仏殿内の本尊の説法印仏陀の脇侍に帝釈天の図像的要素を多分に含む尊像が頻繁にみられ、三尊形式の表現伝統に特に前者の主題が多分に影響する可能性を推察し、また後者については神々に説かれた仏法の内容が生死輪廻図をはじめとする壁画主題と相互に連関することを検討した(本成果は、平成24年度に学術誌に論文として発表する予定)。 なお、代表者が建築空間と仏教説話の相関関係を明確にする方法として作成を続けるアジャンター壁画の線図のうち、アジャンター第2窟左廊壁に描かれた仏伝図が完成し、龍谷ミュージアムの開館記念展「釈尊と親鸞」の第4-6期に同仏伝図高精細写真とともにパネル展示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
比較資料の収集のため、ほぼ予定どおり関連する遺構や作例の実地調査研究を行ったが、本務校における大学業務の増加(主に学科主任業務)により、論文等に成果をまとめるに至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度をむかえるため、インド古代およびスリランカ古代壁画の見直しとパガン仏教寺院の壁画調査をもって調査を終了し、時代別や建造物各部と説話図の相関に注目して仏教説話図の受容や変容について引き続き検討し、未完の論文や研究ノート等を発表する。また、仏教説話の存在意義を美術史の視点から提示しつつ、代表者が博士論文以来、継続して進めるアジャンター壁画の体系的研究に加え、本研究成果を統合し、報告書として発表する。
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