2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22720068
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
埋忠 美沙 早稲田大学, 演劇博物館, 研究員 (20468846)
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Keywords | 河竹黙阿弥 / 四代目市川小団次 / 五代目尾上菊五郎 / 歌舞伎 / 役者絵 / 合巻 / 幕末 / 世話狂言 |
Research Abstract |
本研究は、歌舞伎作者・河竹黙阿弥と幕末の名優・市川小団次の提携の実態を、文字資料と絵画資料を活用して明らかにすることが目的である。歌舞伎の作品研究は、文字資料(テクスト)の分析が主流だが、本研究は文字資料のみならず、絵画資料(画像)をも活用することが特徴である。絵画資料によって、テクスト分析だけでは限界がある演出や作品解釈の変遷が浮びあがり、作者と役者の影響関係を示すことが可能となる。また絵画資料、なかでも役者絵の資料的価値を示しうる点で、幕末の歌舞伎研究にとどまらない意義があると考える。本年度は、黙阿弥研究に重要でありながら従来十分に研究されていない『契情曽我廓亀鑑』と『青砥稿花紅彩画』を取り上げ、作品研究をおこなった。『契情~』は、小団次の一周忌に上演された作品である。小団次が急死したため、黙阿弥はその息子たち(市川左団次・子団次)の後見人となったが、本作にはそうした劇界の状況が当て込まれていることを分析した。一方の『青砥~』は、黙阿弥の代表作だが、小団次ではなく、五代目菊五郎に対して書かれた作品である。歌舞伎でを重ねてきた日本左衛門の逸話を素材としているが、黙阿弥は日本左衛門とその一味を、歌舞伎の先行作の主流である大盗賊ではなく、極めて卑近な盗賊として描いており、それが小団次との提携で生まれた、いわゆる「白浪狂言」に則った造形であることを指摘した。さらに絵画資料(役者絵と合巻)を検証し、演出が完成する過程を詳らかにした。なおこの二作について、良質な活字本が刊行されておらず、それが研究停滞の一因であることと考え、作品研究を反映させ、初演時に台本に基づき制作された合巻(正本写)の翻刻を行い、影印と併せて刊行した。
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