2010 Fiscal Year Annual Research Report
中近世の尼寺における文芸・文化研究―比丘尼御所を起点として―
Project/Area Number |
22720090
|
Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
恋田 知子 国文学研究資料館, 研究部, 機関研究員 (50516995)
|
Keywords | 尼寺 / 比丘尼御所(尼門跡) / 物語草子 / 仮名法語 / 陽明文庫 / 寺社縁起 / 絵巻・奈良絵本 / 説話 |
Research Abstract |
まず、近世初期の近衛家とその周辺の文化圏(比丘尼御所)における法語受容の具体相を明らかにするため、引き続き、陽明文庫に蔵される仮名法語類の調査・研究をおこなった。陽明文庫蔵「道書類」のうち、『大灯國師法語』および『彼岸記』の全文翻刻および解題を発表した。『大灯國師法語』については、花園天皇の皇后に説示したとされる法語のみを写した抄出本であり、道書類の他の禅宗系仮名法語と同様、女性向けの法語としての側面が色濃いことを示した(『三田國文』51号)。また『彼岸記』については、これまで真宗談義本のみが知られていたが、本書はそれとは異なる系統の『彼岸記』であり、調査の結果、西本願寺蔵室町末期写本、および江戸後期の平仮名絵入り版本とも同系統であることが判明した(『三田國文』52号)。以上のように、陽明文庫に蔵される仮名の法語類である「道書類」を中心に、比丘尼御所の関与のもと、書写・伝来した物語草子の様相を考察し、法語と物語草子との近似性について明示した上で、時代やジャンルによって区分された従来の研究にとらわれない、制作・享受の場に照らした、新たな物語研究の必要性について論じた(『中世文学と寺院資料・聖教』)。 一方、中世の説話や物語に数多く展開する堕地獄・蘇生譚のなかでも、法華経直談の場と寺院での縁起伝承に共通する中山寺の僧による堕地獄・蘇生譚の様相について論じた(『遊楽と信仰の文化学』)。また、室町期の貴顕による制作状況が明らかな縁起絵巻『真如堂縁起』について、その特徴を明示するとともに、これまで知られていなかった陽明文庫蔵浄土系仮名法語とのかかわりを指摘し、室町期の社寺縁起制作の一端を明らかにした(『国文学解釈と鑑賞』)。以上、室町後期から近世初期にかけての寺院圏と貴族圏とのかかわりのなかで生成・享受された宗教的言談について分析を進め、尼寺の文芸基盤となる文化圏の実態解明に努めた。
|