2010 Fiscal Year Annual Research Report
オブジェクティヴィストの詩の技法におけるイディッシュ語の影響
Project/Area Number |
22720099
|
Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
宮本 文 群馬大学, 教育学部, 講師 (90507930)
|
Keywords | 英米文学 / 英語 / 文学論 |
Research Abstract |
研究成果として、オブジェクティヴィストの一人であるチャールズ・レズニコフの『証言』におけるイディッシュ語の影響について、バラッドを媒介にして明らかにしようと試みた論文「チャールズ・レズニコフの『証言』とアメリカン・フォーク・バラッド」が挙げられる。研究課題を明らかにする上で、本論文の意義は、バラッドという定点を設定したところにある。バラッドを導入することで、ともすれば漠然とした散漫な指摘の羅列に終わる危険性を回避しつつ、イディッシュ語を言語の問題のみならず、階級や性差といった問題を含めた総体として、その影響を検討し抽出することが可能になった。バラッドは古くから広く流布している詩形であり、東欧のイディッシュ語コミュニティーにも伝えられ、オブジェクティヴィストたちが生まれ育ったアメリカのユダヤ系コミュニティーでもイディッシュ・バラッドがうたわれていた。 『証言』とイディッシュ・バラッドを比較検討し、オブジェクティヴィストの作品におけるイディッシュ語の影響を明らかにするのが最終的な目的であるが、本論文はまずその下準備として『証言』とバラッドを比較検討した。バラッドは『証言』と同様に事件を描くことが多く、重点は事実を綴ることに置かれ、因果関係や動機の解明には至らない。「控えめなトーン」と「因果関係」の排除は、バラッドと『証言』の両者ともに顕著な特徴としてまず挙げられるものである。更に重要なのは、これらの特徴が、両者の語り手や登場人物が因果関係の決定権も持たず、社会的にも文学の伝統的にも主流へのアクセスを持たないことの帰結であったということである。このような共通点にも関わらず、『証言』とバラッドの類似性は指摘されてこなかった。この成果は、レズニコフとイディッシュ・バラッドの比較検討の一工程として欠かせないものであり、次年度での両者の直接的検討につながる重要な礎である。
|
Research Products
(1 results)