2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22720101
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
石割 隆喜 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (90314434)
|
Keywords | ピンチョン / 小説論 / ザック・スミス / ポストモダニズム / ポストヒューマン |
Research Abstract |
本研究は、トマス・ピンチョンの『重力の虹』のイラストレーション化がピンチョン文学のみならず今日の文学世界全体の中でどのような意味をもつのかを明らかにするために、同作品を現代アート作家ザック・スミスによる書籍版『イラスト版重力の虹』と比較検討しようとするものである。本年度は、全体の3分の1にあたる約250枚を調査する予定であったが、スミスのイラストレーション作品を所蔵するウォーカー・アート・センターへの出張の代わりに書籍版による調査へと変更したため、予定より作業が進み、全755枚のほぼすべての調査が完了し、残るは描かれた内容の判別が困難な数十枚を残すのみとなった(当初は、研究計画2年目の本年は、全体の3分の2にあたる500枚まで調査完了する予定であった)。この検討作業の結果まず確認されたのは、昨年度同様、『重力の虹』における濃密な内面描写と『イラスト版』における現代アートとマンガが融合したかのような人物のデフォルメとの主体表象の面でのギャップであり、しかし同時に、この主体表象の厚さとフラットさというギャップが矛盾とは感じられず、どちらも等しくポスト・ヒューマニスト的と感じられるという点である。本年度はこの点に加えて、ピンチョンの主体表象には「光」が重要な役割を果たしている(内面に光を当てるという意味において、またパラノイア的妄想が光のように射し込んでくるという意味において)ということが明らかとなった。 この小説とイラストの照合作業と並行して、『重力の虹』における主体表象の問題を理論的かつ「小説」論的に考察する作業も行い、その成果の一端を日本英文学会第83回全国大会におけるシンポジウム「ポストヒューマンの文学表象」にて「小説の非人間化-あるいはポストヒューマン的読書」として発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『イラスト版重力の虹』の実作品の調査から書籍版を用いての検討ならびに理論的・「小説」論的考察へと本課題の研究方法を当初より若干軌道修正したが、それが有益であると考えられるため。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度ならびに本年度同様、『重力の虹』における主体表象の問題を、スミスの『イラスト版』と間テクスト的にテクストに密着して考察しつつ、ヒューマニズム/ポストヒューマニズムという理論的方面からも補強しながら研究を遂行していく。
|
Research Products
(1 results)