2011 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ文学における損失のモチーフと保険思想の相互関係
Project/Area Number |
22720104
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
下條 恵子 宮崎大学, 教育文化学部, 講師 (30510713)
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Keywords | 英米文学 / 思想史 / 社会史 |
Research Abstract |
本研究は、アメリカ文学の中に存在する「喪失・損失」の描写が「損失」を前提に成立する保険制度の思想と相互関係を持つのではないかという仮定の下、両者を比較することを目的としている。平成22年度に行った「損失」をテーマとしたアメリカ文学に関する研究を踏まえ、平成23年度は、「災厄・共同体・物語」をテーマとして設定し、講師を招いての文学講演会の企画・開催、学会での口頭発表、論文発表を行った。 文学講演会の企画・開催について:所属研究機関である宮崎大学で、学生・教職員・一般市民を対象にした文学講演会を企画。日米文学研究者スコット・ピュー教授(福岡女子大学)を講師として招聘し、英語による文学講演会"Getting beyond Trauma : Haruki Murakami's After the Quakeを開催。「震災・共同体・物語の力」をテーマに、壊滅的な被害をうけた社会に文学の想像力がどのように働きかけるか、という内容のご講演を頂いた。平日の午後開催にも関わらず定員を超える80名以上の参加者が集まり、講演会の終了後も活発な質疑応答が交わされ、講師の先生および聴衆からもご好評を頂いた。講演は英語で行われ、私が司会とともに通訳も兼ねた。 学会での口頭発表(「パーチメント・スキンージョー・クリスマスの肌を物語のページとして読む」):「フォークナーと身体表象」と題されたシンポジウム内の発表であり、FaulknerのLinght in Augustに頻出する「羊皮紙」の比喩が、白人社会が異端者に供犠を強要する物語空間として登場していると論じた。「災厄」と「共同体」を読み解く際に、「身体」が物語空間として供与されるという気付きが大変大きな成果となった。 論文1「パーチメント・スキンー『八月の光』物語空間としてのジョーの肌」は上記の口頭発表の内容に加筆修正を施し、論文として仕上げたもの。学会誌『フォークナー』の巻頭特集記事として近く掲載される予定。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はアメリカ文学の中に存在する「損失」の描写が保険制度の思想と相互関係を持つのではないかという問題設定をすることによりアメリカ文学研究に経済や社会思想といった学際的な視点をもたらすことを目的としでいる。23年度は「災厄・共同体・物語」をテーマに、1930年代のアメリカ文学、および国際的なオーディエンスを持つ現代文学としての日本文学を研究の対象とすることで、研究的視野を広げることに成功し、さらに文学講演、学会発表および雑誌論文という具体的な成果を残すことができたため、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度は本研究課題の最終年度にあたるため、その総括となる研究活動を行いたい。これまでの研究の中で、本研究課題をテーマとした一冊の研究書にまとめるのに十分な質・量の論文を書きためてきている。さらに内容を充実させるために24年度も引き続き新たな論文を複数書き加え、また総括的な内容の論文も執筆予定なので、年度内の出版は現実的とは言えないが、1~2年以内の出版を目指して、校正等の作業も進めていく予定である。
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Research Products
(2 results)