2010 Fiscal Year Annual Research Report
第一次大戦期の英国における国家イデオロギーの形成と作家による教育テキストとの関係
Project/Area Number |
22720122
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Research Institution | Kumamoto Health Science University |
Principal Investigator |
岩井 学 熊本保健科学大学, 保健科学部, 准教授 (70369859)
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Keywords | D. H. Lawrence / First World War / history / national ideology / education / The Ladybird / "The Thimble" / "Wintry Peacock" |
Research Abstract |
第一次大戦中から戦後すぐにかけて執筆されたD・H・ロレンスの歴史書Movements in European Historyを、第一次大戦期の国家イデオロギーとの関わりから分析し、さらにこの教科書に見られた国家イデオロギーが、ロレンスのフィクションではどのような形で現れているのかを分析した。分析の対象としたテクストは、戦中に執筆された"The Thimble","Wintry Peacock"および1921年に前者を改訂したThe Ladybirdである。 分析の結果明らかになったことは、Movements in European Historyの後半で特に顕著になる、「大戦による浄化」という戦争を肯定するイデオロギーが、戦中に執筆された短編にも現れていることである。ところが戦後数年たって執筆された"The Ladybird"では、戦前と戦後の断絶という、戦後のイギリス社会に広く流布したイデオロギーが前面に押し出されるくる一方、「大戦による浄化」は批判の対象として描かれるようになる。また可能性を秘めて描かれていた帰還兵たちも、社会を変える力を持たない、象徴的にも実質的にもインポテントな存在として描かれるようになっていく。 このようにロレンスのテクスト群は、"The Ladybird"を境に大きな転換を見せる。戦中・戦後のイデオロギーに着目しながら、歴史書とフィクションを併置し分析することで、戦中から戦後すぐにかけて執筆された短編小説群と、1920年代以降のテクスト群との間には大きな断絶が見られ、後者にはロレンス作品の集大成へと向かう方向性がはっきりと見えてくることが明らかになるのである。
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Research Products
(1 results)