2011 Fiscal Year Annual Research Report
第一次大戦期の英国における国家イデオロギーの形成と作家による教育テキストとの関係
Project/Area Number |
22720122
|
Research Institution | Kumamoto Health Science University |
Principal Investigator |
岩井 学 熊本保健科学大学, 保健科学部, 准教授 (70369859)
|
Keywords | D.H.Lawrence / First World War / history / national ideology / education / "The Blind Man" / "Tickets Please" / Movements in European History |
Research Abstract |
本研究の目的は、第一次大戦期の英国における、教育を通してのナショナリズムの形成と作家との関係である。これまであまり光の当てられることのなかった、作家による学校用・一般向け教科書を、第一次大戦期の文脈の中で考察した。取り上げた作家はD・H・ロレンスおよびJ・M・バリーである。ロレンスに関しては、歴史書Movements in European Historyに見られた大戦期の国家イデオロギーが、同時期に執筆された中・短編にどのように現れているか分析した。取り上げたテクストは"Tickets Please"と"The Blind Man"である。Movements in European Historyと同時期のフィクションで最も大きく共振している点は、大戦による浄化論をめぐるイデオロギーである。Movements in European Historyの中で時に明確に表明されていた浄化論が、フィクションでは、人々を復活へと導く帰還兵という形で描かれていることを分析した。またMovements in European Historyの中でフン族をめぐる記述の背後に見られた反独イデオロギーと共通するタームがフィクションの中でも使われていることが明らかになった。 しかしながら、これらテクストの別の側面も明らかになった。"Comradeship","a fit country for heroes to live in"といったフレーズが流布される中、ロレンスの短篇は、人々がそのイメージとは逆の故郷喪失や疎外といった状態におかれていることを暗示するテクストでもあるのである。歴史書であれフィクションであれ、ロレンスのテクストは戦争肯定と反戦の間を常に揺れ動いている。ロレンスのテクストは時に国家イデオロギーと共鳴するが、同時に、第一次大戦という狂気に覆われたイギリス社会の現実をあらわにし、戦争を肯定する言説を転倒させるのである。
|
Research Products
(2 results)