2010 Fiscal Year Annual Research Report
ドイツ民衆啓蒙運動による文化革命 ――<Volk>と民衆文学の価値転換――
Project/Area Number |
22720138
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Research Institution | Matsuyama University |
Principal Investigator |
田口 武史 松山大学, 法学部, 准教授 (70548833)
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Keywords | 民衆啓蒙運動 / R.Z.ベッカー / Volk / ナショナリズム/愛国主羲 / ドイツ啓蒙主羲 / 市民社会 / クニッゲ / カント |
Research Abstract |
<民衆啓蒙運動>が18世紀末ドイツの知識人たちにどのように受け止められ、どのような影響を及ぼしたのかを探り、主に次の点を明らかにした。 1)カントの啓蒙論:「啓蒙とは何か、という問いへの回答」(1784年)において、カントは、「公衆」の自由が啓蒙の時代を保証するのだと訴えたのだが、この主張に<民衆啓蒙運動>が間接的に関与していることが本研究でわかった。この思想運動の中心人物R. Z.ベッカーは、1780年以降、「万人が啓蒙の権利と義務を有する」と唱え、一定の反響を得ていた。これを受けた啓蒙知識人たちは、民衆啓蒙の必要性と、その手段として出版物を用いることの是非を巡って盛んに意見を交わした。ところがその際、彼らの多くは、出版物が人心を撹乱するのではないかと恐れ、著述家自身による自己検閲が不可欠だと考えた。こうした反動的な見解に対抗して、カントは啓蒙家自身が悪しき「後見人」となる危険性を指摘し、出版物を介した「公的な/公開のoffentlich」議論を要求したのである。 2)クニッゲの啓蒙主義批判:クニッゲは主著『人間交際術』において辛らつな同時代批判を展開した。とりわけ、啓蒙家を自認する人々に対する激しい攻撃が注目に値する。なぜなら、クニッゲ自身が啓蒙主義の代表的論客と目されてきたからである。そこで本研究では、彼の啓蒙主義に対する内部批判が如何なる意図に基づくかを再検討した。『人間交際術」においてクニッゲが提示した「真の啓蒙」とは、生活に直結した実用的知識を民衆に与えることであった。すなわち彼の要求は、<民衆啓蒙運動>とまったく軌を一にしているのである。従来の研究で看過されてきたクニッゲと<民衆啓蒙運動>の関連が、ここに指摘される。なお、クニッゲとベッカーは秘密結社の活動を通して接触した可能性があり、今後この観点から研究を進めてゆく。
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