2011 Fiscal Year Annual Research Report
ドイツ民衆啓蒙運動による文化革命 ――<Volk>と民衆文学の価値転換――
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22720138
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Research Institution | Matsuyama University |
Principal Investigator |
田口 武史 松山大学, 法学部, 准教授 (70548833)
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Keywords | 民衆啓蒙運動 / R.Z.ベッカー / フランス革命 / ジャーナリズム / 啓蒙 / J.H.カンペ / 愛国主義 / 農民一揆 |
Research Abstract |
18世紀末ドイツの社会状況と<民衆啓蒙運動>の動向を照らし合わせるべく、関連文献の調査・分析を行った。とりわけ、フランス革命に対する知識人の反応に焦点を合わせた。 1)先行研究の再検討:従来の研究は、革命を熱狂的に歓迎し、やがて幻滅した詩人や思想家の言説を中心に取り上げてきた。しかし彼らの多くは、革命の推移を多かれ少なかれ対岸の火事として眺め、一個の歴史的事象として解釈していたのではないか。革命賛成から反対へと態度を変えた人々が、みずからの変節を弁明していないのが、その一つの証拠である。そこで本研究では、民衆啓蒙家にしてジャーナリストのR.Z.ベッカーおよびJ.H.カンペが、まさに当事者として展開した新聞上のアクチュアルな発言を掘り起こし、その変化を辿った。 2)ベッカーおよびカンペの革命報道:ベッカーとカンペはそれぞれ自分の編集発行する新聞において、フランス革命の動向をドイツに伝えた。すでに民衆啓蒙の指導者として名の通っていた彼らは、読者に対して、革命と民衆啓蒙の因果関係を説明する責務があった。つまり彼らは、一方で従来通りドイツにおける啓蒙的社会改革を推進し、他方で急進的な社会変革を防止するという、相反する要請に応えねばならなかった。そのため、革命勃発直後こそ革命の人道的理念と歴史的意義を啓蒙思想との関連において評価する記事が見られるが、すでに1790年には、フランスの政治的堕落と啓蒙の不足が革命の元凶だとし、反革命の態度を鮮明にする。さらに、ほどなくしてドイツ各地で農民一揆が発生する段になると、より具体的にフランス革命の非啓蒙性を指摘し、啓蒙国家ドイツの優位を強調するようになる。こうした報道姿勢は、(本来民衆の福祉を目指していた)ドイツ民衆啓蒙運動が、治安維持および愛国主義の鼓舞を第一目的とするようになった経緯を如実に示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は<民啓蒙運動とフランス革命>をキーワードとして、1)先行研究を再検討し、この研究対象がこれまで十分に検討されていないことを確認し、2)関連する一次文献(新聞)を、ドイツのゴータ研究図書館にて調査・収集、3)収集した新聞のフランス革命に関する記事をピックアップして、詳細に分析した結果、4)まさに民衆啓蒙家が率先して、すなわち他の知識人に先駆けて反革命の論陣を張り、その主張を広めていったことを明らかにした(学会における口頭発表)。 研究の手法及び結果は、いずれも当初の計画通りである。ただし、本研究を論文として発表するに至っていないことが、反省点としてあげられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度(最終年度)は、まず前年度の研究成果を速やかに論文化して発表する。そのうえで、19世紀前半の後期ロマン主義運動を主たる考察対象とし、啓蒙主義以降の<Volk>観の特性を詳らかにする。フランス革命を挟んだ二つの思潮が民衆啓蒙運動を媒介として、屈折しつつも連続していることを証明し、これまで行ってきた考察の総括とする。 ロマン派の著述家たちの文学作品・理論的著作・書簡等における<Volk>像の分析に力を注ぎ、彼らが民衆啓蒙運動の何を拒否し、何を受け継いだのかを明らかにする。さらに民衆啓蒙運動と共通の教育的志向を持ちつつも、ナショナリズム傾向が比較的希薄だったスイス人作家による著作と比較して、ドイツにおける<Volk>概念の政治性を際立たせる。近代的<Volk>概念の成立において民衆啓蒙運動が果たした隠然たる役割を明示するのが最終目標である。
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