2012 Fiscal Year Annual Research Report
ドイツ民衆啓蒙運動による文化革命 ――<Volk>と民衆文学の価値転換――
Project/Area Number |
22720138
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Research Institution | Nagasaki University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
田口 武史 長崎外国語大学, 外国語学部, 准教授 (70548833)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2013-03-31
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Keywords | 民衆啓蒙運動 / R.Z.ベッカー / J. ゲレス / フランス革命 / ロマン派 / ナショナリズム / Volk / 世界市民 |
Research Abstract |
これまで二カ年で取り扱ったテーマである民衆啓蒙運動のドイツ啓蒙主義全体における思想的位置づけ、および民衆啓蒙家のフランス革命観の考察を踏まえて、18世紀末の民衆啓蒙運動と19世紀初頭のドイツ・ロマン主義との接点を探った。 1)民衆啓蒙運動の主導者であるR.Z.ベッカーが、19世紀の新しい政治状況の中で急速にナショナリズム傾向を強めてゆく過程を跡付けた。彼はフランスによるドイツ占領を独裁政治による啓蒙主義の侵害と批判し、自らが編集発行する新聞で抵抗を試みたが、フランス軍の手で逮捕監禁されてしまう。この体験を記した著作において、彼は―啓蒙家として冷静に発言しようと努めているにもかかわらず―言葉の端々で自尊心を傷つけられたドイツ人としてのルサンチマンを滲ませている。注目すべきことに、まさしくそうした発言のなかに、〈Volk〉の過去に寄せる愛着やその起源に対する関心といったロマン派詩人たちと共通する志向が見出された。 2)ベッカーと同様に反ナポレオンの論陣を張ったJ.ゲレスを、比較対象として取り上げた。彼はフランス革命勃発から約10年間、革命思想の普及と共和政体の実現を目指して言論活動を展開した。従来の研究では、その主張をもっぱらカントの政治論と世界市民思想に基づくものと見なしてきたのだが、市民階級が国家の担い手として民衆を啓蒙することで政治的難局を切り抜けるべきだというゲレスの提案は、ベッカーのそれとも完全に一致している。後にロマン派の中心人物となるゲレスが、実は民衆啓蒙の思想系譜に連なっていることが確認され、ここに民衆啓蒙運動とロマン主義との接点が指摘される。 以上の考察から、民衆啓蒙運動が下層民としての〈Volk〉から民族としての〈Volk〉という概念の転換を引き起こし、それを一つの契機としてロマン主義的な〈Volk〉イデオロギーが生まれてきたのだという結論に達した。
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Current Status of Research Progress |
Reason
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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