2012 Fiscal Year Annual Research Report
ビルマ古典歌謡におけるジャンル形成:歌謡集写本と旋律の分析を通して
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22720140
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
井上 さゆり 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (40447503)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ビルマ歌謡 / ビルマ音楽 / 外国文学 / ジャンル / 写本 / 貝葉 / 折り畳み写本 |
Research Abstract |
(1)アメリカの民族音楽学者の権威であるJudith Becker氏が1960年代に収集した、現在では現地でも入手困難なレコードの譲渡を受け、これのデジタル化を昨年度に続き進め、回転数の異なる一部のレコードを除き作業を終了した。 (2)19年度より取り組んできた、古典歌謡の録音資料のデジタル化を進めた。申請者の所有する録音資料は、1960年代のラジオ放送など、録音資料として最も古い時代のものを含んでおり、現在では入手困難であるものも多い。また、昨年度の現地調査でも新たな録音資料を入手した。報告者の所有する録音資料の規模は現地でも稀有のものであり、作業の完成をヤンゴン文化大学音楽学部にも待たれている。 (3)5月30日に東南アジア社会と文化研究会(京都大学)において「ビルマ古典歌謡における書承の変遷」のタイトルで口頭発表を行い、本研究の成果の一部を発表した。 (4)英訳出版(24-25年度科研費研究成果公開促進費)に向けて準備中の著書(22年度科研費出版の著書『ビルマ古典歌謡におけるジャンル形成』大阪大学出版会)の翻訳作業を終了した。この作業の中で貝葉文書、折り畳み写本を読み直し、新たな発見があり、また疑問点も生じた。3月の現地調査でヤンゴン文化大学客員教授のウー・トゥンキン氏、元国立図書館長ウー・キンマウンティン氏と話し合いを行い、報告者の疑問について解決するとともに、現地の古典音楽諮問委員会で下されている解釈に新たな解釈を行い、それが反映されることとなった。報告者が撮影し所有する貝葉、折り畳み写本は現在では閲覧不可能であり、これの分析に取り組んでいるのは国内外を通して報告者のみである。現地でも殆ど明らかになっていない古典歌謡のジャンル形成について一次資料に基づき分析している報告者の研究は現地でも成果を期待されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度は現地でもほとんど実物の残っていない希少なレコードのアナログ化及び中身の分析を昨年度に引き続き進め、本研究課題遂行に重要な資料の裏付けが出来た。さらに、当初の計画になかった口頭発表の機会を得て、本研究の研究成果の一部を報告することができた。この口頭発表において、本研究が明らかにしようとしている古典歌謡のジャンル形成について、保存の詳細な過程を明らかにした。 また、調査時期がずれたことから予定していた芸能コンクールの調査はできなかったが、今回調査した時期にのみ開催されている寄進祭、仏塔祭での音楽演奏の実態を調査することができた。ビルマの代表的な音楽形態であるサインワイン楽団の演奏が現地の文脈でいかに行われているかについて概要を掴むことができた。この中では古典歌謡のレパートリーとは別に新たな歌謡のジャンルも形成されていることが明らかになった。 予定通り、著書の英訳を終了した。この作業の中で一次資料を再度読み直すことにより、新たな発見があり、一方で新たな疑問点が生じた。これを、3月の現地調査で現地研究者との議論にを続けて一部解決した。現地でなされている解釈が史料の裏付けがないものであることを一部発見し、その発見は元国立図書館長ウー・マウンティン氏を通じて氏が理事を務める古典音楽諮問機関の解釈に反映されることとなった。 一方、研究課題の遂行と著書の英訳作業を優先させたことから、予定していたBurma Studies Conference(10月、ノーザンイリノイ大学)での口頭発表ができなかったため(2)の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、歌謡集写本の分析を引き続き進めて、古典歌謡のジャンルが形成されてきた過程を詳細に分析する。報告者がヤンゴン国立図書館で収集した、1950~80年代の音楽雑誌の分析を進め、これを用いることで、ビルマにおいて、独立期から社会主義政権時代にかけて古典歌謡の実態が作り上げられていったことを明らかにしてきた。この作業により、古典歌謡のジャンル形成がより強化されていった過程を明らかにし、分析をさらに進めて作業の細部を補強する。 また、本研究の主要史料である貝葉文書、折り畳み写本の史料の読み直しを昨年度行い、その分析について現地調査で現地研究者と行った議論に基づき、貝葉文書「モンユエー僧正の古い歌謡集」「ミャワディ・ミンジー・ウー・サの歌謡集」の分析をさらに詳細に極める。その分析結果について8-9月に現地に赴き、ヤンゴン文化大学客員教授ウー・トゥンキン氏、元国立図書館長ウー・キンマウンティン氏と議論を行い分析の精度を上げる。 この現地調査においては、マンダレーのドー・キンメイの元にも訪れ、古典歌謡の教授を自身で受けるとともに、古典歌謡の教授実態について記録(録音、録画)を行う。また、彼女夫でありビルマを代表する音楽家であった故ウー・ミィンマウン氏が作成した莫大な数の手書きの楽譜の撮影を進める。報告者との長年の親交の結果、家族により許可されたものであり、非常に貴重な資料である。 また、デジタル化を進めているアナログ音源についてもさらに作業を進める。デジタル化後に曲ごとにトラックを分節しデータベースを作成しているが、膨大な量のアナログ音源のデジタル化を一層進める。 昨年度の調査で新たに収集した資料も加え主要な資料は既に収集済みである。本年度はこれら資料の整理、分析を進め、本研究の課題遂行を行う。 昨年度終了した著書の英訳の精査を行い、今年度末の出版に向け準備を行う。
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