2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22720149
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Research Institution | Atomi University |
Principal Investigator |
酒井 智宏 跡見学園女子大学, 文学部, 助教 (00396839)
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Keywords | トートロジー / 等質化 / 意味の共有 / 言語記号の恣意性 / 固有名 / 同一性言明 / 意味排除主義 / 言語科学の哲学 |
Research Abstract |
平成23年度の実績は主として次の三点である。 第一に、トートロジー論において用いられることの多い等質化概念が混乱に陥っており、その混乱が意味の共有という幻想に根ざしていることを示した。等質化に基づく理論では、「PであるXはXでない」と「PであってもXはXだ」が対立する場面において、「PであるX」(p)がXであると仮定しても、Xでないと仮定しても、矛盾が生じる。このパラドックスは、Xの意味を固定した上で「pはXなのか否か」と問うことから生じる。実際には、この対立は「Xの意味をpを含むようなものとするべきか否か」という言語的な対立であり、pの所属をめぐる事実的な対立ではない。基本語の意味でさえ、話者の間で常に共有されているわけではなく、恣意的に取り決められうる。言語記号の恣意性が言語学の教科書にさえ載っている基本概念であるのに対して、基本語が安定した意味を有しないとする考え方は言語学者の反発を招きやすいが、この二つの考え方は実は同根なのである。 第二に、a=b型の同一性言明が、事実言明ではなく、記号aと記号bの置換可能性を述べる文法言明であることを示した。従来の分析哲学では、この言明を文法言明だと考えると、a=b型の言明がもつ認識価値が説明できなくなるとされてきた。本研究では、この言明が、新たに導入される記号間の置換可能性ではなく、現に使用されている記号aと記号bの置換可能性を述べる文である点に注目することにより、この難点を克服し、「固有名の意味=対象」という簡略な意味論を維持することに成功した。 第三に、本研究の成果をふまえ、「科学としての言語学」という考え方の検討に着手した。言語学の教科書の記述には基本的な混乱が多く見られ、他分野との相互理解に支障をきたしている。この状況を超克するためには、「言語科学の哲学」の視点が不可欠である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記した、トートロジーにおける最小命題の除去、矛盾文における規範性解釈の導出、同一性言明の解釈のいずれに関しても、順調に研究が進んでいる。平成23年度中は、英文雑誌論文の公刊および国際ワークショップ等における成果発表には至らなかったが、これは平成24年度中に実現することが確実である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度を迎えるにあたり、研究成果の発表に重点を置く。その際、トートロジーに関する研究成果を英文で発表し、同一性言明に関する研究成果を仏文で発表することにより、専門言語の枠を超えて成果を共有できるようにする。また、平成24年6月にフランスで開催される東洋語に関するワークショップにおいて、本研究の妥当性を日本語の事例に基づいて示す。こうした成果発表と並行して、本研究を次の研究課題に接続するための基礎研究を行う。第一に、本研究の成果をふまえて、哲学における固有名論と言語学における固有名論の架橋を試みる。第二に、エピステモロジー(科学認識論)の観点に立ち、言語学の教科書において前提とされている言語学の諸概念を問い直す。
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Research Products
(5 results)