2011 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本社会における「戦争体験の語られ方」とその社会的影響に関する研究
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22720237
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
一ノ瀬 俊也 埼玉大学, 教養学部, 准教授 (80311132)
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Keywords | 軍隊経験 / 地域社会 / 戦死者追悼 / 徴兵制度 |
Research Abstract |
本年度は、「戦争体験」に関する戦中戦後の史料を幅広く収集し、分析を加えた。具体的には戦前の各地域で作成された戦死者追悼録、前線将兵に送られた慰問誌、戦後になって同じく地域で作られた戦死者追悼録などである。これらを年次別に分類、重要箇所をコンピュータ入力することで、地域において語られていた戦争正当化の論理がいかなるものであったのかを問うた結果、特にそのような存在しないのではないかという仮説をたてるに至った。 これは、地域社会という視点に立った戦争受容の背景を探るうえで重要な問題と考える。よって、今後はなぜそれが存在しないのかについての理由の解明が次なる課題となろう。次年度、すなわち研究最終年度の平成24年度に必要な分析作業を行いたい。 また、今年度は戦前の日本軍兵士が軍隊経験を己の人生の中にいかに位置づけようとしていたのかという問題について、軍隊で記した日記をもとにアプローチを試みた。大正期、朝鮮の京城師範学校出身一年現役兵が一年間の軍隊生活の中で記した日記集『凝視の一年』という特異な史料を入手、彼らにとって軍隊が一種の「人生道場」、つまり自己の人生にとってプラスの価値をもっていたことを明らかにした(活字化して山口輝臣編『日記に見る近代日本3 大正』に「凝視の一年(吉尾勲編)」と題し掲載済み)。戦前日本社会におけるそのような価値観の存在自体は従来から指摘されていたことではある。ただ、のちの戦時期朝鮮において小学校教師となり、皇民化政策や戦時動員政策を末端で担った彼らがそのような軍隊観を少なくとも「発話」できたことは、前記の政策遂行の社会的背景を考えるさい、興味深い論点と考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初予定していた範囲の史料の収集・分析はおおむね完了できたため。ただし、もう少し調査の範囲を広げてより多くの史料を収集することもあるいは可能であったかとも思われるので、上記の自己評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
研究第1・第2年度に収集した史料の分析を進展させる。これまでは、主に地域社会の発行した各種記念誌などに注目してきたが、より個人的な史料である日記や軍事郵便などからもその「戦争体験」を抽出することが可能であるかとも思われる。よって、この<集団と個人>という分析視覚をあわせて導入することによる研究内容のいっそうの精緻化をめざしたい。
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