2010 Fiscal Year Annual Research Report
中世初期東インドにおける社会形成:規範の構築と諸社会集団間の交渉
Project/Area Number |
22720264
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古井 龍介 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (60511483)
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Keywords | 東洋史 / 東インド / 中世初期 / 社会形成 / 碑文 |
Research Abstract |
本年度は新発見碑文の読解および既出碑文の再読解により得られた新たな知見に基づき、史料読解および現地調査を行った。前者については、シャシャーンカのパンチロール銅板文書を再校訂し、以前の校訂版の誤りを正し翻訳を付すとともに、そこに読み取られる7世紀ベンガル西部における在地有力者層の台頭と彼ら相互および外部権力との権力関係を論じ、公表した。後者についてはバングラデシュ、西ベンガル州での博物館所蔵品および遺跡調査に加え、隣接するオリッサ州においても博物館所蔵碑文および中世初期寺院・仏教僧院遺跡の調査を行った。平野に張り出した丘陵上に仏教僧院が建立され、平地の著名ヒンドゥー寺院群がいくつかの宗教センターとして発展し、また非定住社会が現在に至るまで存続する当該地域の現状と歴史過程の理解により、主に新旧デルタにより構成され、寺院を中心とするセンターが発展しなかったベンガルにおける社会形成の特徴、特にその中でブラーフマナと彼らの居住地の拡大が果たした役割の重要性が浮き彫りになるとともに、拡大する定住農耕社会と非農耕社会との間で否応なく生じたであろう交渉を、限られた碑文・文献史料に読み込んでいく上での視点が得られた。 以上に加えて、十分な校訂が行われていない新発見のラージビタ碑文の読解・校訂し、そこで初めて存在が確認された11世紀北ベンガルの商人集団(ヴァニグ・グラーマ)の活動について論じるとともに、当該碑文を始めとする新史料を加えた諸碑文・文献史料に基づき、5世紀から13世紀ベンガルにおける商人集団の歴史を、市場の農村への拡大とともに彼らが活動の拠点を都市から農村へと移し、その後ブラーフマナ層の権威の下でカースト的集団として組織化していく過程として捉えた。その成果は現在海外研究誌に投稿中である。
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