2011 Fiscal Year Annual Research Report
中世初期東インドにおける社会形成:規範の構築と諸社会集団間の交渉
Project/Area Number |
22720264
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古井 龍介 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (60511483)
|
Keywords | 東洋史 / 東インド / 中世初期 / 社会形成 / 碑文 |
Research Abstract |
本年度はまず新発見碑文のうち、マヒーパーラ1世のラングプル銅板文書を校訂・公表し、そこに見られる漁撈集団カイヴァルタの土地保有者層化と特定地域への集住、非農耕民キラータの居住する森林への言及から、11世紀北ベンガルにおける農業拡大の様相を論じるとともに、被寄進者であるブラーフマナおよび文書銘刻者の記述により、9世紀以降展開する識字層のネットワーク形成の事例を追加した。また、上記文書を加えた諸碑文およびプラーナ、ニバンダの読解に基づき、5世紀から13世紀のベンガルにおけるブラーフマナの歴史を、彼らのアイデンティティー明確化、移住にともなう拡大と中心地形成によるネットワーク構築、および宮廷と農村社会におけるヘゲモニー確立の過程として論じた。後者の成果については現在海外研究誌に投稿中である。 インドでの現地調査では、デリーおよびコルカタでの所蔵品・資料調査に加え、アッサム州において広汎な調査を行った。同州ではグワハティおよびテーズプルの諸博物館・図書館にて銅板文書を中心とする所蔵品および資料の調査を行う一方で、それぞれの市を中心として散在するブラフマプトラ川中流域の遺跡群を調査した。その結果、5世紀から7世紀の平野部の煉瓦建築から8世紀以降の流域丘陵部の石造建築へと寺院建築が変化する傾向が認められ、そのような傾向と、碑文から読み取られる河川流域から内陸への農業拡大とそれに伴う非農耕社会との接触、さらに彼らの宗教センターのブラフマニズムへの包含の過程との関連が推定された。以上により中世初期以降のアッサムにおける社会形成・規範構築を研究する上での、社会的文脈への理解が深まった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に予定していた現地調査は次年度に持ち越されたものの、二度にわたるバングラデシュ・インドにおける調査により、予定をほぼ遂行し、加えて比較対象として重要なオリッサについても調査することができた。史料読解についてもおおむね順調に進行しており、新発見碑文・再読碑文を加えた諸史料の読解から導き出される中世初期ベンガルにおける社会形成の諸側面を、二編の投稿中論文にまとめることができた。以上から、当研究はおおむね順調に進展していると判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
現地調査については、まだ調査を行っていないビハールおよびベンガル西部・東部辺境地域に対象を拡大して継続する。文献史料の読解とともに、収集済みの新発見碑文史料の校訂・公表も進める。一方で、昨年度・今年度の投稿中論文に引き続き、中世初期東インドの社会形成の諸側面の論考をまとめ、公表していく。特にすでに史料収集・読解が進み、理論化もある程度進んだ中世初期ベンガルについては、モノグラフとしての刊行を目指す。また、次年度以降、インド人研究者の招聘やインドの著名研究機関での研究発表を通して海外研究者と議論する機会を増やし、それを通した理論の精緻化に努める。
|