2012 Fiscal Year Annual Research Report
中世初期東インドにおける社会形成:規範の構築と諸社会集団間の交渉
Project/Area Number |
22720264
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古井 龍介 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (60511483)
|
Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 東洋史 / 東インド / 中世初期 / 社会形成 / 碑文 / 国際研究者交流(インド) |
Research Abstract |
本年度はまずヴァイニヤグプタの新発見銅板文書を解読・校訂して5、6世紀東ベンガルにおける農耕拡大と国家形成、王権の保護を受けたアージーヴィカ教団の実態とそれらの連関について論じ、成果を論文として投稿するとともにカルカッタ大学古代歴史文化学科の月例講演として発表した。また、同文書を含む新発見文書の読解を通して5-8世紀東ベンガルの社会形成過程を再検討した。 9月には南アジア中世初期史研究の大家B.D.チャットーパディヤーヤ教授の講演を催して意見を交換し、同時期の歴史変化を理論化する上で重要な示唆を得た。また、ベンガル社会形成の概観を南アジア学会全国大会で発表し、近現代ベンガル社会研究者とその妥当性を議論した。加えて、昨年度投稿したベンガルの商人集団に関する論文の最終版提出を契機に農業拡大と農村部商業化の関連を再考した。以上を通して中世初期ベンガルの社会変化を再検討し、執筆中のモノグラフに反映させた。 インドではコルカタとデリーでの所蔵品・資料調査に加え、前年度に引き続きアッサム州で現地調査を行った。まずディブルガルからジョールハートに至るブラフマプトラ川上流域の遺跡を調査し、14世紀に進入したタイ族によるアホム王朝の確立、ブラフマニズム受容および労役に基づく特異な社会制度の導入が東インド他地域と異なる社会形成をもたらしたことを確認した。さらにナガオン県内平野部の遺跡を調査し、8-12世紀に煉瓦、ついで石造のシヴァ派寺院群が成立する過程に同時期のブラフマプトラ川中流域北岸との共通点が見られる一方、在地有力者によると考えられる精緻なヴィシュヌ像の建立に11‐12世紀の隣接するベンガル北部との類似性があることを確認した。バングラデシュのダカでは、考古局所蔵の全銅板文書の登録情報を調査するとともに現物を実見して所在を確かめ、また国立博物館所蔵の重要銅板文書のデジタル写真を入手した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定されていたインドのビハール州およびバングラデシュのチッタゴンでの調査は延期することとなったが、昨年度に継続して範囲を広げて行ったアッサムでの調査では、同地域における長期的な社会変化を俯瞰し、それとの比較により各地域の変化を理解する視点が得られた。また、ダカでの調査で予想以上の一次史料にアクセスできたため、ベンガルにおける社会変化を理解する上での新たなデータを入手できた。これらの現地調査の成果は予定されていた調査の遅延を補ってあまりあるものである。 また、ベンガルに関しては二度の発表とチャットーパディヤーヤ教授との議論を通して、これまで積み上げてきた研究成果を新たな視点を加えた上で発展させ、中世初期全体の社会変化を捉えたモノグラフとして完成させる展望が得られた。 以上の成果と研究計画全体に対するその重要性を鑑みれば、当研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず昨年度までの調査により収集された一次史料、特に未校訂ないし校訂の不十分な諸碑文の校訂・公表をより精力的に進めて新たなデータを内外の研究者に提供するとともに、それらの検証により導き出された新たな知見に基き現在執筆中の中世初期、5-13世紀ベンガルの社会変化を俯瞰したモノグラフの完成を目指す。その内容については適宜学会報告ないしインドおよびバングラデシュの諸機関での講演として発表し、参加研究者との議論を通して理論的精緻化を目指す。また、同時期のアッサムにおける社会変化についても、中世後期における新たな社会制度の導入による劇的な変化を考慮に入れた上で中世初期ベンガルにおける歴史的変化と比較し、一定のモデルを構築する。 以上の作業を通して研究成果をまとめていく一方で、インド、バングラデシュでの現地調査を継続し、さらなる資料の収集を進めるとともに、延期していたビハールでの遺跡・所蔵品調査を完了する。
|