2012 Fiscal Year Annual Research Report
毛沢東期における中国共産党の支配の正当性論理と社会
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22720269
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
三品 英憲 和歌山大学, 教育学部, 准教授 (60511300)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 中国共産党 / 毛沢東 / 群衆路線 / 土地改革 / 農村革命 / 支配の正当性 |
Research Abstract |
平成24年度は、学術論文1本を発表するとともに、研究課題に内容的に関係する学会での招待講演を1回おこなった。以下、それぞれについて概略を述べる。 学術論文「毛沢東期の中国における支配の正当性論理と社会」は、戦後内戦期(1946~49年。本論文の対象時期は主としてそのうち1946~47年前半)に中国共産党が華北地域において実施した土地改革運動が、当該社会の秩序をどのように変化させたのか明らかにした。共産党の革命は当該社会の既存の人間関係を破断し、親共産党的な人々を中心に新たな基層政権を立ち上げ、そのことを「群衆の意思」を根拠に正当化した。しかし同時に共産党は、そのように成立させた新たな基層政権であっても、それが恒常的に「群衆の意思」を代表しているとは認めなかった。共産党が作り出した秩序とは、「群衆の意思」を支配の正当性の根拠とする一方で、その「群衆の意思」の内容自体を共産党がコントロールするというものであった。以上の考察を踏まえ、論文の最後では、このように共産党が社会秩序そのものを改変するころができた原因・構造について考察し、中国社会の伝統的な「公・私」観念のあり方が大きな意味を持ったのではないかという展望を示した。 招待講演「中華人民共和国とその成立に関する諸問題について」は、中華人民共和国の成立を日中戦争期からの中国基層社会の分裂に着目して説明した笹川裕史『中華人民共和国誕生の社会史』を題材として、当該時期に関する研究状況を踏まえつつ、その到達点と残された問題を論じ、中国近代史研究者はもちろんのこと、日本史・ヨーロッパ史研究者も含めて活発な討論を行った。 なお平成24年度は、上記の研究成果の公表のほかに、上海図書館および南京図書館において国共内戦期の土地改革に関する資料調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究対象時期は1940年代初めから1950年代末までであり、本研究の具体的な研究課題は、毛沢東が「党主席」や「国家主席」といった政治的な指導者としてだけではなく、「人民大衆は何を求めているか」といった現実認識や、「正義とは何か」といった価値基準までも独断的に決定しうる指導者になっていった過程をあきらかにすることである。 以上の研究対象時期と研究課題に対し、平成23年度までに、1950年代の中華人民共和国の支配構造・支配の正当性論理に関する論考と、1940年代前半における毛沢東の党内指導権の確立過程に関する論考を発表した。そのうえで平成24年度には、1940年代後半の時期を対象に、中国共産党がその支配地域においていかなる構造の支配をうちたてようとしていたのかを明らかにして学術雑誌に発表することができた。これらの論考は、それぞれ学会における研究発表を踏まえて成稿したものであり、そうした学会の場で行った多くの研究者との学術的な交流・議論の成果が結実したものである。 また資料調査の面でも、平成24年度までの3カ年で、法務部調査局資料室(台湾)と上海図書館・南京図書館を訪問して資料状況調査と複写を行い、かつ法務部調査局資料室所蔵の中国共産党関係資料については、その一部分の目録を学術雑誌上に発表して学界に還元した。以上から、本研究課題は順調に進展していると評価することができる。 なお、国共内戦の後半(1947年後半~1949年前半)についてはまだ研究が進んでいないが、これは平成25年度に取り組むべき課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度が終了した時点で残されている大きな課題は、国共内戦の後半(1947年後半~1949年前半)に、中国共産党がその支配地域においてどのような構造の支配をうちたて、それが内戦の帰趨にどのような影響を与えたのか(例えば食糧・兵士の徴発などに対して)、そしてその結果、中華人民共和国はどのような構造をもつ国家として成立したのかを明らかにすることである。この課題を研究するためには、国共内戦期に農村に送り込まれ革命工作に従事した共産党工作隊が書き残した報告書を丹念に読み解いていく必要があるが、その際には、これまでの研究でその重要性が明らかとなった「群衆の意思」という言葉の用例に着目する。共産党は自らが立ち上げた基層政権の正当性を「群衆の意思」を根拠として説明したが、このことは基層政権が共産党に対して自律性を持つことにつながったのではなく、逆に共産党に対する自律性を弱めることに結果した。この構造について、資料上で「群衆の意思」が使われる際の文脈を丁寧に追いながら分析する。こうした分析は時間がかかることが予想されるが、資料批判を徹底的に行って記述の真偽を見極めなければならない以上、読み解く「量」よりも読み解きの「質」を優先せざるを得ない。 なお、本研究が依拠する資料の収集に関しては、日中関係の動向や中国における指導部交代の影響などのため、中華人民共和国における資料調査が所期の成果をあげることができるかどうか不透明である。そのため平成25年度は、台湾(とりわけ法務部調査局)における資料調査に重点を置く予定である。
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Research Products
(2 results)