2012 Fiscal Year Annual Research Report
衛星写真とスタイン・ヘディン地図を用いた探検隊調査地の解明に関する基礎的研究
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22720275
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Research Institution | National Institute of Informatics |
Principal Investigator |
西村 陽子 国立情報学研究所, コンテンツ科学研究系, 特任研究員 (70455195)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 考古学 / 東洋史 / 地理情報システム(GIS) |
Research Abstract |
平成24年度は、本研究の目的の一つである「シルクロード遺跡データベース」の作成に向けたデータ整備を重点的に行った。具体的には、平成22年度に作製した「スタイン地名データベース」に対して、地図全域にわたって地名データに位置情報を附与し、ほぼ全ての地名データがスタイン地図上に当該位置マッピングされるようになった。これは「マッピニング」を用いて誤差データを系統的に収集するためのデータ基盤になると共に、遺跡データベースの遺跡照合結果集積の基礎となるものである。 シルクロード遺跡の現地調査については、新疆ウイグル自治区の治安状況を勘案してトルファン地区の調査を行った。本調査では、都市遺跡である高昌故城を対象として取り上げ、第一次・第二次ドイツ調査隊が調査した遺構を確定することを目的として、トルファン地区文物局と協力しつつ城内の全遺構の悉皆調査を行った。この結果、都市という小地域に対しても、大地域と同様の手法が有効であり、衛星写真上での同定と現地調査の組み合わせによって、シルクロード探検隊が調査した遺構をほぼ全て確定できることが明らかになった。この成果は既に学会で口頭発表したが、今後中文・英文・日文で公刊する予定である。また、調査成果である写真は「写真でつなぐシルクロード」においてデータベース化してメタデータを附与し、遺跡データベース上で利用できるように整備した。遺跡同定結果などの成果は、今後作成する遺跡データベース上でも公開する予定である。 この他、トルファン地区の現地調査では、これまで手付かずのまま残されていたロシアのオルデンブルグの調査地の同定にも取り組んだ。その結果、トルファン市の西北に位置する大桃児溝・小桃児溝石窟から葡萄溝に至るやや低い山岳地帯がロシア隊の調査地であり、写真に撮影された遺構がなお現存するだけでなく、他にも十数箇所の寺院遺構が存在することを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成22年度には現地調査が予想以上に進展したが、平成23年度は現地の治安が悪化したため調査は不可能になった。一方で、平成23年度は、データベースの設計・構築が当初想定した以上に進展した。平成24年度は、新疆ウイグル自治区西部の治安状況は依然として回復せず、当初計画していたクチャ・カラシャール地区の調査は延期を余儀なくされた。一方、トルファン地区においては高昌故城調査を集中的に行うことができ、トルファン地区やコータン地区といった大地域で積み重ねた調査手法が相対的に小さな都市遺跡にも適用できることが明らかになった。また、ロシア隊の調査地についても新たな知見が得られた。地名データベースや写真データベースなど、遺跡データベース構築に向けたデータ整備も順調に進んでおり、全体計画の中ではおおむね順調に成果を上げている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、平成24年度の成果を日本語・中国語・英語論文で公刊するほか、スタイン地名データベースのデータを用いて地図全域の誤差収集を行い、これらの成果の集大成として「シルクロード遺跡データベース」の構築に取り組む。また、現地の研究機関と協力しつつ、本研究における最後の調査地点として、クチャ地区の遺跡同定と調査を行うことを計画している。 このほか、今年度中にHedinのCentral Asia MapおよびKarte von Ost-Persienの位置合わせを行い、マッピニング上で誤差収集・解析ができるようにデータの整備を行う。 今年度の挑戦的な課題は、今後の発展に向けた研究体制の構築である。本研究では、これまで地理情報と遺跡同定を重視してきたが、データベースの本格的な構築が始まるにつれて、少人数での研究だけでなく、シルクロードに関するさまざまな専門家が参加しやすい研究体制が必要であることが明らかになってきた。そのための対策として、特にヨーロッパ探検隊将来遺物の出土地確定などを事例としつつ、本研究を次の段階に引き上げるための国際的な協力体制の構築を試みることを計画している。
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