2011 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀初頭のイギリスにおけるチャリティ活動の実態的・言説的把握
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22720282
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
金澤 周作 京都大学, 文学研究科, 准教授 (70337757)
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Keywords | イギリス / チャリティ / 20世紀 / 歴史 / 福祉 / 第一次世界大戦 / 戦争 |
Research Abstract |
近年の研究動向によれば、20世紀のイギリスは、二つの世界大戦で未曽有の国民的動員をかける必要から、その見返りとして国民に各種の福祉的給付を約束したという「福祉国家welfare state=戦争国家warfare state」論で説明されることが多い。すなわち、第一次世界大戦を戦い抜くための総動員体制は、不可避的に国家福祉を拡大させたのである。たしかに、この時期に兵士家族への別居手当や、除隊兵および戦死者遺族への年金の給付は本格化している。それでは、1909年の救貧法委員会であれほど言及されたチャリティ実践は、総力戦体制下で窒息してしまったのであろうか。 このような問題意識から、まずは第一次世界大戦期のイギリス社会を論じた先行研究に学び、この時期においてもなお、相応のチャリティ活動が展開していたことを確認した。さらに、2008年に発表されたピーター・グラントの論文から、当時1万8000にものぼる「戦争チャリティwar charities」が全国各地に展開していたことを知る事が出来た。本研究では上記の社会史的な先行研究が明らかにしてきた諸実践の具体性(質)と、グラントが明らかにした全体的な図柄(量)とを有機的に統合した戦争チャリティ像を描くことをめざし、特に、当時スキャンダルとなっていた戦争チャリティを騙る詐欺の横行を、社会史的かつ政治史的に、そしてミクロかつマクロに分析することにした。 研究費を活用し、同時代の文献を入手し、イギリスの各種文書館において警察の捜査報告書や議会の調査報告書を渉猟して、詐欺問題の実態とそのスキャンダル化、警察による内偵と議会調査委員会による立法措置の提言、そして戦争チャリティを登録制にするという、イギリスチャリティにおいて注目すべき介入的な立法がなる経緯を再構成することができた。 総力戦体制にあっても、チャリティは戦争が生み出す弱者の救済に大きな役割を果たし、そうであるがゆえに詐欺問題は実際の規模以上に誇張され、その結果、国家はより効率的なチャリティ実践をうながすために、登録制度を導入したのであった。チャリティは「福祉国家=戦争国家」化するイギリスの基層に有り続けたのである。 総力戦体制にあっても、チャリティは戦争が生み出す弱者の救済に大きな役割を果たし、そうであるがゆえに詐欺問題は実際の規模以上に誇張され、その結果、国家はより効率的なチャリティ実践をうながすために、登録制度を導入したのであった。チャリティは「福祉国家=戦争国家」化するイギリスの基層に有り続けたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
戦争チャリティに関しては、政治史的な脈絡も究明することができたので、これは当初の計画以上の進展といってよい。ただ他方で、本年度にやるはずであった戦争チャリティのリストのデータベース化はできあがっていない。したがって、総じていえば、「研究の目的」に記したとおり、第1年目に引き続き、第2年目の研究も、おおむね順調にするめることができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度には、第1年目と第2年目にそれぞれ明らかにした19世紀末~20世紀初頭のチャリティ事情(1909年の救貧法委員会報告)と、第一次世界大戦期のチャリティ事情(戦争チャリティの詐欺問題)を時系列的に統合し、ひとつの歴史像を描き出すことを課題としている。そのためには、ある種の数量的な動向分析が不可欠である。そこで、やりのこした戦争チャリティのデータベース作りを急ぐとともに、他の平時のチャリティ活動の数量的把握にもつとめたい。
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