2010 Fiscal Year Annual Research Report
中世盛期西欧における文字実践の展開とその社会的影響
Project/Area Number |
22720283
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松尾 佳代子 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (40551924)
|
Keywords | 記述文化 / リテラシー / 修道院文化 / 紛争解决 / 西洋史 / 中世フランス |
Research Abstract |
本年度の課題は、本研究の時代的背景の把握、中心的史料となる『コンベントゥム』の分析、フランスでの資料調査の3つであった。まず第1の課題については、11・12世紀のアキテーヌ地方および、近接するメーヌ地方やブルゴーニュ地方の領主社会・教会世界を扱った研究文献を入手し考察を行った。その結果、ポワチエ伯、近隣地域の諸伯、ポワトゥ地方の副伯や中小領主の具体的な動向に加え、他地域と比較して、ポワチエ伯が地域領主・司教・修道院に対する宗主的な影響力を保持している点、教会会議が頻繁に開催され、教会・修道院間での紛争解決がそこで図られている点など、ポワチエ伯を中心とする地域社会の特徴を明らかにすることができた。第2の課題に関しては、本研究では従来の多くの研究と同様に『コンベントゥム」を歴史的史料として扱う一方で、「作成者(著者)」の存在を意識した新たな叙述の読みを試みた。その際、『コンベントゥム』をラテン語で書かれた武勲詩の先駈けとみなし、文学的性質を強く指摘するG・ビーチの考察は、この史料にみられる口承文化的側面と記述文化的側面の理解に大いに役立った。史料からはとりわけ、新興の城主とポワチエ伯他の旧来の勢力との政治的駆引き、ポワトゥ南部での城砦保有をめぐる攻防への関心と同時に、両者に対する静かな批判と嘲笑を史料作成者のまなざしとして読み取ることができた。これは史料作成の背景を知る上で、重要な手がかりである。第3の課題については、『コンベントゥム』の写本の閲覧、『コンベントゥム』作成地の一候補であるサン・シバール修道院を対象とした一次資料の所在調査および閲覧、二次文献の調査および入手を、パリとアングレームで行った。なお、この際に収集した資料については、具体的な内容分析に向けた整理・分類、史料批判に取り組んだ。
|