2011 Fiscal Year Annual Research Report
中世盛期西欧における文字実践の展開とその社会的影響
Project/Area Number |
22720283
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松尾 佳代子 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (40551924)
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Keywords | リテラシー / 中世フランス / 修道院 / 記述文化 / 文字史料 |
Research Abstract |
本年度は、中心的史料『コンベントゥム』の作成地特定に向けて、フランスでの資料調査および収集した修道院文書の分析、年代記作者アデマール・ド・シャバンヌの執筆活動に関する考察の2点を主要な課題として設定した。第一の課題では、対象となる四修道院のうち、アングレームのサン・シバール修道院については前年度に収集した文書史料の分析、リモージュのサン・マルシャル修道院、ポワチエのサン・シプリアン修道院とサン・チレール修道院については、現地調査によって資料を収集し、その後、資料分析を行った。四修道院の文書史料の分析からは、どの修道院も『コンベントゥム』で具体的に描写される紛争事例13件について直接対応する文書史料を残していないことが確認された。史実に即した記録である可能性は低い一方で、『コンベントゥム』に描かれた領主はいずれも11世紀前半のポワトゥ地方に実在する。『コンベントゥム』にみられる領主関係と各修道院のおかれた社会的状況とを照らし合わせると、リモージュ司教とサン・マルシャル修道院長を伯父にもつマルシュ伯ベルナールが、家臣と共に『コンベントゥム』で厚遇されることから、サン・マルシャル修道院との関係の深さが浮かび上がる。サン・マルシャル修道院を『コンベントゥム』作成地の有力候補とする見解は、第二課題の考察結果とも合致する。第二課題では、11世紀アキテーヌ地方の代表的な年代記作者アデマール・ド・シャバンヌの執筆活動を、『コンベントゥム』作成との接点に注目しながら考察した。サン・シバール修道院で修道士となり、その後サン・マルシャル修道院に移ったアデマールは、アキテーヌ地方の『年代記』のほか、サン・マルシャル修道院の『年代記』、説教等、複数の著作を残した。『コンベントゥム』作成への直接の関与こそ言及されないが、その活動は当時のサン・マルシャル修道院での活発な文字史料作成を物語っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フランスの国立図書館、およびオード・ヴィエンヌ県文書館、ヴィエンヌ県文書館を中心に、関係する三修道院について資料調査・収集をし、各修道院での文字史料の生産活動について分析をしたことと、年代記作者アデマール・ド・シャバンヌの執筆活動を考察したことで、本年度の主な課題二点を共に計画通りこなした。
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Strategy for Future Research Activity |
二年度に渡って、本研究の中心的史料『コンベントゥム』の分析、11世紀のアキテーヌ社会の考察、資料収集を目的としたフランスでの現地調査と入手した修道院文書の分析を行ってきたが、最終年度は『コンベントゥム』作成背景の解明を通じて、中世盛期に文字資料がもった社会的インパクトに関する理論的考察に取り組むと共に、研究の総括にあたる。研究成果をフランス語論文として学術雑誌上で公表する計画であるため、短期的に渡仏して効率的に準備する予定だが、手続き等に問題が生じれば日本語論文としての発表に代えて対応する。
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