2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22720289
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
岩本 崇 島根大学, 法文学部, 准教授 (90514290)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 古墳時代 / 青銅器 / 製作技術 / 銅鏡 / 筒形銅器 / 巴形銅器 |
Research Abstract |
平成24年度は、前年度より継続して、巴形銅器や筒形銅器、銅鏡といった青銅器を中心に、その製作技術を復元するための材料を得るために、国内各地において、資料の実査を進めた。そのうえで、各種の青銅器のとくに仕上げ工程の違い、また鋳型構造の違いなど、複数の技術系統が併存することをほぼ確実視できるようになってきた。 また、厚い先行研究がありながらも、これまで製作技術についての検討が不十分であった銅鏡について、広く観察をおこない、製作技術の異同が技術系統の差を反映しているだけでなく、時期差をも包含するという見通しを得た。 そうした点をふまえて、とくに三角縁神獣鏡の研究の現状について論点の整理をおこない、製作技術の検討をさらに深めることによって、この鏡について新たな説明がなお可能であることを指摘した。また、とりまとめている中途ではあるが、三角縁神獣鏡には製作技術の異同にもとづく、製作にたいする志向性の相違が確実にみとめることができるようである。今後、論点を明確にして、技術的な観点から三角縁神獣鏡の生産体制について言及する予定である。 また、銅鏡に対比する資料として、古墳出土の巴形銅器についてその製作技術を復元を目的とした論考を作成・発表した。古墳出土の巴形銅器は基本的にはいずれの出土例もほぼ同じ製作技術によるものであり、同一の製作者集団によって製作されたものである可能性がきわめて高い。今後、同時期に存在する、銅鏃や銅鏡、とくに時期的にもっとも関係性が強いと考えられている筒形銅器の製作技術との比較検討が重要な課題であり、平成25年度はこの点について考察を試みる予定である。 比較検討をすすめるうえでの基礎的なデータを蓄積することもいっぽうではさらに必要であり、継続して調査を実施した。翌年度も引き続き、研究基盤を整える作業も推進する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基礎的なデータの蓄積がこれまでになされていないこともあって、多くの労力を資料の観察に費やしているところであるが、いっぽうで研究成果も一定量ながら論考という形であげることができており、おおむね順調に研究は進展しているものと自己評価している。 とくに、これまでまったく製作技術についてとりあげられることのなかった巴形銅器について、その製作技術を復元し、技術的な特徴を抽出できたことは、今後ほかの青銅器との比較をおこなううえで、一つの指標としうる。そうした点においては、当初の計画にそって研究成果を提示することができているといえよう。 また、三角縁神獣鏡を含め、古墳時代の銅鏡についても、その製作技術についてふれられることは少ないが、技術的な観点から新たな説明が可能であるという見通しを得た点も、大きな成果であると考える。ちなみに三角縁神獣鏡については、資料の実査によりこれまで同じ鋳型で製作された「同笵鏡」の存在が不明であった資料について、新たな「同笵鏡」のあることを確認している。「同笵鏡」が増加することによって、同一の場所においてほぼ同時に製作された鏡が広く流通している点をあらためて確認することができるようになった点は大きな成果と考えている。 さらに、上に示した成果にもとづいて、前方後円墳出現期の青銅器生産体制を考えるうえで重要な当該期の集団構造や集団関係についても、論考を公にしえた点も、研究がほぼ順調に進行していることを示すものと自己評価したい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究においてもっとも重要であるのは、実物資料の観察をおこない、そのデータをいかに蓄積し、表現するかという点にある。まずは、可能な限り、多くの資料にあたることによって、製作技術の異同を示すための材料を整備したい。 さらに、平成25年度は、本研究の最終年度となることから、これまでの研究成果を一定の形にしてとりまとめることも試みる。とくに、これまでは、個々の青銅器の製作技術について、その復元的検討を進めてきたが、今後は異なる役割を果たしたであろう青銅器について、製作技術という観点から、結びつきを有するのか、あるいは排他的な関係にあるのかを明らかにすることをめざす。とくに、銅鏡、銅鏃、筒形銅器、巴形銅器を比較検討し、技術系統的な観点から物質資料のありようについていかなる分析が可能で、なおかつどのように説明しうるのか、その方法を新たに示すことを目標としたい。 また、本研究課題は、前方後円墳成立期を対象としたものであり、そのタイムスパンは比較的限定的なものである。しかし、青銅器生産は弥生時代前期末にはじまり、以降、長期にわたり継続する。今後の方策として、青銅器生産を歴史的に位置づけてゆく必要性を強く感じており、いかなる方策をとるべきであるか、問題点の洗い出しをおこなうとともに、新たな課題設定にも取り組むこととしたい。とくに、長期的なスパンにおよんだ青銅器生産のなかでも、どの時代の青銅器生産を明らかにすることが、その技術を長期にわたって保持しつづける基盤となったのかを探ることにも力点を置くつもりである。
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