2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22720290
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田尻 義了 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 研究員 (50457420)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 弥生時代 / 鋳造 / 青銅器 / 鋳型 / 石英斑岩 / LA-ICP-MAS / EPMA / 微量元素 |
Research Abstract |
本研究の目的は弥生時代における青銅器生産の実態を解明することである。なかでも、対象資料をこれまでの研究で取り上げられることの少なかった小型青銅器にしている。これまでの青銅器研究の多くは、大型青銅器を対象として、青銅器が用いられた社会や集団祭祀などの復元に目が向けられ、小型青銅器に関しては関心が払われてこなかった。小型青銅器は出土資料数が多く、鋳造回数からいえば、弥生時代の鋳造行為のほとんどは小型青銅器を製作したといえる。したがって、小型青銅器を含み込んだ青銅器生産の解明を行わなければ、弥生時代の青銅器生産の実態は解明できない。 そこで、昨年度の研究で明らかにした鋳型石材産地の解明という成果に基づいて、本年度は鋳型石材の流通に関する研究を行い、鋳型石材に分布から当時の石材流通の実態を明らかにした。その成果は5月に刊行された雑誌『日本考古学』に掲載され、さらに最新の研究成果を8月に愛媛大学で開催されたアジア鋳造技術史学会で発表している。また、研究内容の一部を6月に開催された国際学会(SEAA5)でも発表しており、国際的な研究成果の公開も試みている。 本年度の資料調査としては、これまであまり注目されてこなかった対馬出土の青銅器に関して、東京国立博物館所蔵資料・文化庁所蔵資料を中心に調査を進め、製作技術の解明を試みている。また本年度は福岡県をはじめ佐賀県、大分県などから新たな資料が出土したため、基礎資料の蓄積を行うためそれらの資料調査も推進させた。 また、本年度はこれまでの研究成果をまとめた著書を出版することができ、広く研究成果を公開している。その結果、これまであまり関わり合いのなかった研究者との交流も広がり、来年度以降の研究の幅も広がりを見せている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の達成進展度は、昨年度解明された鋳型石材の産地同定が可能となったことから、当初の計画以上に進行している。なかでも地球惑星科学分野との融合研究として、LA-ICP-MASやEPMAを使用した鋳型石材である石英斑岩の鉱物組成や微量元素、構成鉱物の生成年代測定を実施した。分析の結果、鋳型石材の産地が福岡県南部を流れる矢部川流域であると特定されたことにより、青銅器生産のこれまでの先学が進めてきた成果を根本的に問い直し、新たな研究ステージに進展してきている。すなわち、青銅器生産に必要な物資の調達先が解明され、その産地が従来青銅器生産が盛んに行われていたと考えられる福岡平野から離れた地域だったからである。 こうした研究成果を受け、本年度からは、再び製作された製品の基礎資料に対するデジタル顕微鏡を用いた丹念な調査が必要と考え、基礎調査も着実に推進している。特に対馬出土の青銅器は朝鮮半島とのつながりが想定され、本年度、来年度予定の調査によって、朝鮮半島との青銅器製作技術の交流についても今後検討していかなければならず、当初の計画以上に研究に広がりと幅を持ちはじめている。また、日本列島内での調査も確実に実施しており、本年度は新たな出土資料に対しても調査を実施することができた。 研究成果は本年度も着実に公開され、学会発表2本、論文1本、著書1冊が刊行できた。このように、地球惑星科学分野との融合研究の成果に基づいて、本研究の目的である青銅器生産の実態が明らかになりつつある。融合研究の今後の推進とともに、朝鮮半島まで見据えた広く東アジア的視点での研究が今後可能となる可能性を広げている。こうした研究の推進状況から、本研究は当初の計画以上に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度実施した地球惑星科学分野との融合研究の結果、鋳型石材の石英斑岩の産地が福岡県南部を流れる矢部川流域であると同定された。その成果を受け、本研究は弥生時代の青銅器生産の実態が解明されつつある。これまでの研究では製作された製品研究が主であったが、鋳型石材の産地の解明により、鋳造時に必要な鋳型石材、青銅原材料などの研究の進展が可能となりつつある。鋳造時に揃えておかなければならない各種道具や施設など、これまでの研究では見過ごされがちであった課題に対し、本研究は広がりを持ちはじめている。 こうした研究の進展状況を受け、再び製品に対しての詳細な研究も推進していかなければならない。そこで本年度からは対馬出土の青銅器について調査を開始した。対馬出土の青銅器は朝鮮半島で製作されたものと判断されており、それらの資料の調査によって、朝鮮半島と日本列島における青銅器製作技術の違いや技術交流の実態が明らかになるであろう。すなわち、これまで日本列島内での比較研究であった本研究は、今後、朝鮮半島をはじめとする東アジア的な視点での青銅器製作技術の検討が必要となりつつある。なお、これらの調査研究成果は2013年8月に韓国で開催される国際学会で発表する予定にしている。 また、地球惑星科学分野との融合研究も推進していきたい。微量元素の計測を金属器に対しても実施することができれば、さらなる研究の飛躍も可能であろう。資料の制約もあり、なかなか容易に実施できないが、これまで蓄積された成果をもとに新たな資料についてもアプローチを試みていきたいと考えている。製品に対する分析が可能となれば、今後の青銅器生産研究が新たに大きく展開すると考えている。
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Research Products
(4 results)