2011 Fiscal Year Annual Research Report
実業家・富田儀作の高麗青磁復興事業を事例とした植民地のエージェントの人類学的研究
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22720337
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
太田 心平 国立民族学博物館, 研究戦略センター, 助教 (40469622)
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Keywords | 文化人類学 / エリートネス / 実業家 / 植民地 / 伝統 / 高麗青磁 / エージェンシー / 物質文化 |
Research Abstract |
本研究には2つの目的がある。第1の目的は、植民地朝鮮において日本人実茉家の富田儀作が行った高麗青磁復興事業と、彼の一族による朝鮮工芸品の世界流通、およびそれらが今日の高麗青磁の認識や制作に与えた影響を明らかにするという、史実の究明と地域研究への貢献である。 第2の目的は、これを通して人類学、特に植民地研究とエージェンシー論と物質文化研究へ理論的に貢献することにある。実業家と呼ばれる多面的な活動を行う人びとは、植民地の文化に介入し、植民地を脱した現在の文化にも影を落とす存在であった。だが、その多面性ゆえに研究に時間がかかり、後回しにされてきた経緯がある。申請者は、硬直が見られる当該分野の諸議論に対し、これまでの議論の偏りを修正する立場から、第二段階の研究を展開し、発信されている。 本年度は、富田儀作に関する補充的な資料収集を続けつつ、それらの資料を分析して学界および現地に公開する予定であった。だが、公開に先立つ過程で、この研究は、想定していたのとは違った点で、学界および社会により大きな知的貢献が出来ることが分かった。 それは、これまでに先行研究が多い日本民芸運動および朝鮮白磁の再評価過程との比較研究である。同じく植民地朝鮮における工芸品め復興事業のなかでも、日本の知識人や文化人が主導した朝鮮民芸運動では、朝鮮白磁や木工芸品に偏った評価が行われた。この研究ではすでに、復興された後の朝鮮白磁や木工芸品が「芸術品」としての位置づけを確立していったのに対し、むしろ高麗青磁や螺釦細工は「土産品」としての産業ベースを得たことが明らかになっているが、両者の復興過程におけるエージェンシーの違いは、この芸術か産業かという差の根本を作ったものと仮説を立てることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学界および社会に知的貢献をする準備が、当初の計画以上に進んでいる(「研究実績の概要」参照)。ただし、研究成果の中間報告は当初の計画よりやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、まずこの研究の中間成果を公刊する。それをもとに、学会発表等を随時におこない、学界有識者との意見交換をへて、最終成果物を作成する。
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