2012 Fiscal Year Annual Research Report
英国商事法廷の創設―商事裁判の運用改革の成功とマシュー裁判官のイニシアティブ―
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22730011
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Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
小松 昭人 神戸学院大学, 法学部, 准教授 (00315037)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | イングランド法 / 判例法 / 商事法廷 / 裁判所 / 契約法 / 契約の解釈 |
Research Abstract |
平成23年度の研究において、契約書以外の証拠排除の例外則として、契約締結に向けた交渉過程の許容性を検討した際に、Investors Compensation Scheme Ltd. v. West Bromwich Builiding Society [1998] 1 W.L.R. 896における貴族院裁判官Hoffmann卿の提唱する契約書解釈の5原則とその問題意識を改めて検討する必要を感じた。そこで、平成24年度は、同事件に至るまでのイングランド法における契約書解釈の原則の変遷を、契約書解釈における背景の役割を中心に、判例および学説によって跡付けた。その結果、つぎのことが明らかにされた。 イングランドの裁判所は、伝統的に、文書の解釈において、解釈の必要のないものは解釈を許さないとする考えから、その言葉の自然かつ通常の意味に従って、文書以外の証拠を許容しなかった。契約書の解釈においても事情は同様であり、契約書以外の証拠が例外的に証拠として許容されるのは、潜在的な多義性latent ambiguityの場合に限る、とする判例法理が、19世紀末に確立した。しかし、1970年代の2つの事件でのWilberforce卿の見解をきっかけに、潜在的な多義性がなくても、当事者が契約書の言葉または構文を誤って使用しているに違いないと判断されるときには、契約書以外の証拠として取引の背景を許容し、そこから現れる取引の目的に照らして、契約書の言葉を解釈すべきであるとの見解が、有力になった。Hoffmann卿は、その見解の主唱者として、語用論pragmaticsを重視した言語観に基づき、ICS事件で契約書解釈の諸原則として上記5原則を提示した。これによれば、背景は、従来とは対照的に、潜在的な多義性に代えて、契約書の言葉および構文の誤用の疑いのあるときには、一部例外を除き許容されるものとされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
検討すべき判例の件数が依然として膨大であるため、読解に時間をとられている。判例によっては、所属研究機関に所蔵されていない判例集に掲載されているものもあり、他の研究機関への所蔵の確認および複写依頼に時間がかかっている。
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Strategy for Future Research Activity |
所属研究機関は、オンラインの英米判例データベースを契約している。その活用によって、所蔵されていない判例集に掲載されている判例の探索時間の圧縮に引き続き努める所存である。
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