2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22730029
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
葛西 まゆこ 大東文化大学, 法学部, 准教授 (90433862)
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Keywords | 日本国憲法25条 / 生存権 / 福祉と憲法 / アメリカ憲法 |
Research Abstract |
今年度は、研究実施計画のうち日本における社会権論の成果と限界を明らかにする点の検討を重点的に行った。第一に、拙稿「司法による生存権保障と憲法訴訟」、研究報告「生存権と制度後退禁止原則」においては、日本国憲法25条についての通説とされる抽象的権利説と制度後退禁止原則との関係を検討した。拙稿では、(1)法律による初動を憲法上要請できない抽象的権利説を前提としても、少なくとも行政裁量が問題となる事案においては、憲法的価値を入れ込んだ「違法」判断による権利保障が要請されること(2)今後老齢加算の廃止をはじめとする制度後退が本格化するならば、いままで法律から吸い取ってきたはずの生存権の権利内容が憲法上の規範として機能するのかどうか、抽象的権利説の真価が問われることを主張している。第二に、研究報告「老齢加算廃止訴訟における2つの高裁判決の比較検討」及び拙稿「老齢加算廃止に対する初の違法判断」においては老齢加算訴訟の高裁判決を検討し、制度後退禁止原則が現在の判例法理においてどのように表れているのかを検討した。第三に、研究報告「25条の制定過程」を通じて、制定過程においては生存権を主観的権利として規定することが日本側から提案、主張されたことを検討した。これら3点の研究成果は、今までの研究成果とあわせて拙著『生存権の規範的意義』に反映した。拙著では、主観的権利としての生存権の重要性を主張し、権利の名に値する司法審査が求められることを主張している。拙著の公刊によって、主観的権利として社会権を規定することの意義と限界は一定程度明らかにされたと思われるので、来年度は、アメリカにおける社会権に関する客観法的規定をめぐる議論の検討に本格的に着手することとしたい(この点について、今年度は渡米し、資料収集及びニューヨーク大学ロースクールの教授に対するインタビューを行い、一定の準備作業には着手している)。
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